宿泊客・イサム

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 すべすべながらも温もりを感じる玄関の床板を撫でながら、アリシアはブツブツと呟いている。  そんな事は気にせずに、イサムはアリシアを強引に立たせると、部屋から追い出す事にした。 「まぁこの森には仕事で来たんだけど、そろそろ片が付きそうだし、終わったらちゃんとまとめて支払うよ。って事で、さぁ帰った帰った」 「宿泊費、もうすぐ二週間分の滞納ですよ~。信頼関係の破綻とみなして、強制退去しますよ~」  恨めしそうに、学習したうろ覚えの法律知識を漏らしながら、アリシアは扉の向こうに消えていった。  後に残るはイサム一人。  ふぅ、とため息をつくと、玄関の鍵と念のためのチェーンをかけた後、リビングに通じるドアを開けて中に入った。  しっかりと磨き上げられた、やはり床板と同じ神樹製の扉を音もなく開けると、そこには魔力を纏ってほのかに光る武具が一揃え置かれていた。見る人が見れば、それが伝説に謳われる神話級の武具である事に気づくだろう。さらにそれらの武具をかけられているウォークインクローゼットが、ハンガーをかけるための棒やハンガー自身までも神樹製であり、そのクローゼット自体が正にレジェンドと言えるオーラを放っていた。     
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