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勇者とは職業で、実務が一定年数以上経験しており、かつ非常に難易度の高い資格試験に合格して初めて名乗れる、とても凄い肩書だったりする。一説には勇者資格を取得すると一生食いっぱぐれないとまで言われている。それは純粋な戦闘能力を頼りとした仕事の依頼であったり、知名度をあてにしたイベント等の依頼であったり、ノンフィクションの冒険譚や勇者ライフハック系実用書といった本の執筆依頼であったり、各種団体の立ち上げメンバーとして名義だけを借りたいなんてのもある。そういう訳なので、勇者が行くところに小さな経済的活性化が発生する。その結果、勇者口コミを狙って超安価もしくは無料で各種のサービスを供与するのが当たり前となっていた。一部の勇者が民家や公共の場所において、プライベートエリアを勝手に探索したり、ツボを割ったりしても滅多に咎められないのはそういう事情があるからだ。
閑話休題。
メモ書きを前にして、自分だけ逃げるかイサムを探すかアリシアがしばらく迷っていると、玄関の扉を開ける音がした。
「あれ、アリシアさんじゃないの。逃げなかったの?」
いつもの襟がよれているシャツと丈が短くてつんつるてんのズボンではなく、今日は初めて見る全身鎧姿に片手剣と盾という姿のイサムが居た。
「それはこっちのセリフです。一体どこに行っていたのですか? 封印されていた邪霊が復活してしまったので早く避難しないと……」
「あ、それ倒してきたから大丈夫よ」
「は?」
いやぁ疲れた、と肩や腰を叩きながらリビングまで入ると、着ていた武具を順にクローゼットに吊るし始めた。鎧を脱いだ下は見慣れただらしない服装なので、ここにきてようやく本物のイサムだと実感が湧いてきた。
そのまま、土埃で汚れた顔を洗面所で洗い、鎧等に付いた汚れを落とすためのお湯を沸かし始め、ほどほどに沸いたぬるま湯と端切れで磨き始めて、しまいに部屋に備え付けられている消臭スプレーを満遍なく吹き付けた。特にグリーヴは念入りに消臭していたので、もしかしたらちょっと足が臭うのかも知れない。
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