10

1/1
596人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ

10

ピンと張った夜の空気が揺れた 夜の闇に紛れようとする 何者かの 気配を森が山が排除しようとしていた 利家は外の淀んだ気配で目を覚ました 利家は春日屋と共に帰蝶を護衛すると決めてからたねの家に寝泊まりをしている 当然、帰蝶には良い顔をされなかったが 帰蝶を守るためにはこの方法しかなかった (思ったより早かったな) 利家は衣を纏うと たねのもとに急いだ たねの室の前に来ると 「おたねさん」 と呼びかけた。中からたねが出てくる 「何かあったのかい」 「囲まれています」 たねの顔が強ばった  それは仕方のないことだろう  「では、お願いします、 出来るだけ身を潜めて」 利家はそう言うと駆け出していった たねは上衣を羽織ると 帰蝶のもとに急いだ 戸をあけて 寝ている帰蝶に声をかける 「お濃ちゃん 起きて」 「ん……」 帰蝶が目を開けると たねは帰蝶のそばに行き支えて起こした  「早く着替えて 隠れるよ」 「隠れるって」 「囲まれてるよ、あんたを狙うものたちに」 「えっ……」 たねは褥の横に畳んである、帰蝶の小袖を 取ると肩にかけた 「ごめんね、あんたの正体を知ってるんだよ 清洲の殿様の奥方だろう」 「なんで……」 たねは帰蝶の頬に手を置いた ひんやりとした手の感触に 帰蝶は目を細めた 「前田様に聞いたのよ あんたを守るためだよ」 あんた幸せだよ、守ってくれる人がいるんだからと言いながらたねは帰蝶を立たせた 「ほら、早く」 たねは帰蝶の手を引くと 帰蝶の歩幅に 合わせて歩き出した しばらく歩くと源が立っていた 「源さん ごめんな…」 帰蝶が言うと源はフッと笑った。 「謝るな 楽しいぞ、なぁ たね」 「そうだね、楽しいね、物語の主人公になったみたいだよ」 たねは帰蝶を作業場の後ろにある 人が一人入れるぐらいの小部屋に 押し込んだ 「良いかい、出てきてはダメよ」 「たねさんたちも」 帰蝶が声をあげた 一人で隠れるのはいやだ 「あの奴らの狙いはあんた 私達は大丈夫よ 少しは腕もたつさ」 「いや、いや」 帰蝶は子供のようにいやだと 駄々をこねる 「娘を守るのが親の役目だろう」 そう言うとたねは戸を締めた **** 「利家様」 春日屋がつけた男たちが駆け寄ってくる 利家は男たちに指示を出した 「お前は裏口に行け 残りの二人は俺についてこい」 「「ハッ」」 そのとき 戸が叩かれた 利家はたねを呼ぶと 落ち着いてと耳打ちした そして 『大丈夫、守ります』 と言った。 たねは塩が入っている壷を手に取ると 一呼吸した 戸口に近づき 開ける 「何かご用でしょうか」 そこには顔に傷のある男 早慶が 立っていた 身なりは商人を装い 笑みを浮かべている 「申し訳ない、こちらに若い女がいると聞いたが」 「若い女がなどおりませんが」 「嘘をつくな」 「嘘などついておりません」 「怪我をした女だ」 「ですからおりません」 「嘘を申すな」 「しつこい男だね、いないっていってるだろう」 たねが語尾を強めて早慶に言い返した 早慶は腰に下げている刀に手を添える 「今一度言う 女を出せ」 「いないっていってるだろうが」 たねはそう言うと壷から塩を掴みとり 早慶に向かって投げつけた 「うわっ」 早慶はよろめいた 目を押さえ その場から後ろに後ずさった 「殺れ」 早慶は目を押さえながら叫んだ 忍び達が一斉に襲いかかってくる 利家は刀に手をかけると 外に飛び出した  利家は大きな声で叫んだ 「中に入れるな 命に変えてもお守りしろ」
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!