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ねねと濃姫
ねねはふぅっと息を吐いた。
いつ見ても安土の城は凄く豪華で圧倒されてしまう。
上さまに浮気夫の愚痴を言い叱っていただいたお礼とお会いすることの出来なかった
濃姫様に会いに安土まで来た。
城下の屋敷に住んでいた頃はお会いする事もたくさんあったが城持ち大名になってからはお会いしていない。濃姫様に会うのも随分久しぶりだった。
安土の濃姫様のお部屋は金箔がたくさん使われこの世の物とは思えないぐらい絢爛豪華。
部屋から見える庭には色とりどりの芍薬などが咲き乱れていた。
「久しぶりですね、ねねどの」
上様の好きなお色の赤い色の打ち掛けを纏って濃姫様はあらわれた。
シワもシミもない白く透き通った肌、確か上様のひとつ下。若返りの薬でも使っているのではないかと思うぐらい若く美しい。
「ねねどの?」
ぼーっと濃姫を見つめていたねねは
「申し訳ございません」と頭を下げた。
「ねねどの、頭を上げて」
濃姫にうながされねねは頭を上げた。
「ご無沙汰いたしております、奥方様」
「本当に、久しぶりね、会いたかったわ」
と濃姫が言った。
「上様にお礼に参りました、なのにたくさんの贈り物をいただいてしまって」
「良いのよ、最近は贈り魔なのよ、しょっちゅう商人が来てるわ、信忠に家督を譲って暇なのよ」
だから気にしないで。もらってやって、断ると鬼になるわよ、と言って濃姫様は笑った。
しばらく世間話をしたあとねねは信長が藤吉郎とねねにに宛てた手紙を濃姫に差し出して
「本当に助かりました、心が軽くなりました」
と言った。
「拝見しても良いの?」
「はい」
濃姫は差し出された手紙を見て驚いた。それは信長が側室を持つ事になった時に濃姫に言った言葉をねねに置き換え書いたものだった。
「お前は正室だろ、何があっても。お前の地位は揺るがない、揺るがせない、ドンと構えてろ」
そう言った信長。優しさのかけらもない言い方だった、でも心にスッと入り不安だった心も楽になった。
濃姫はねねを見て思う、ねねも子供が出来ないと聞く、それによって藤吉郎に責められる事もある。
信長は夫の気持ちも子の出来ない妻の気持ちもわかる、だから濃姫に言った言葉をねねにも藤吉郎にもわかるように書いた。
周りになんと言われても二人の心がけ次第で良い方にも悪い方にも転ぶ。だからしっかりしろと。
「濃姫様は上様に愛されておられますね」
羨ましいです、上様の爪の垢をうちの浮気猿に飲ませたいとねねは笑った。
********
あの日信長は濃姫に言った
「舅殿もいなくなり美濃との和睦もなくなった お前を美濃に帰せと言うものもいる
離縁しろと言うものもいる
殺せと言うものもいる
様々な事をこれからも
無責任に言ってくるだろう
その度にお前は苦しみ涙する
でも、これで正真正銘、まむしの娘は
俺の妻になった。
誰のものでもない、俺だけのだ
帰蝶、ドンと構えてろ」
そして
「俺の心はお前に預ける
誰にもやらん」
信長はその約束を今でも守ってくれている
濃姫の膝を枕にして横になっている
信長に濃姫は言った
「ありがとうございます」
「ん」
「殿、ありがとうございます」
濃姫は何度も何度も
ありがとうと繰り返した
信長は濃姫の手を握り
「もう、良い」
と言うと濃姫の手を、きつく握りしめた。
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