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永遠に
まだ温かい彼女を抱き締める。逝くな、逝くなと声をかけながら涙でぐしゃぐしゃになった顔を首筋に埋めた。
「私はいなくなりません」
「ずっと側にいます」
「子はたくさん増やしてくださいね」
「あとの事は頼んでありますから安心してくださいね」
「そんな顔しないで笑って」
「天下取りを目指す人がそんな顔して」
「大丈夫」
「もし、あなたが良いと言うならあなたの最後のときは私が迎えに来るわ
たくさん色んな話を聞かせてね。
だから生きて・・」
手を握り、頬に触れ、時には首に手を回しぎゅっと抱き締め。手を繋ぎ手を絡め。
ふたりの手はひとつに溶けあった
「あなたは一人ではないのよ」
「ずっとずっと一緒だから」
死が迫るなか毎日、毎日帰蝶は信長に語りかけた。優しく囁くように。
*********
息苦しい、そんな気持ちははじめてだ。喉に蓋をされその上絞められているような気さえもする。
おやじの時も政秀の時もこんな感情は
感じることもなかった
吐き気がするような言葉を連ね、偽りの哀れみを表わし去っていく人々を信長はただ虚ろな目で見つめていた。
時がたち覚束ない足取りで彼女の待つ部屋へと足を踏み入れる。
真っ白な寝具に横たわっている彼女はまるで寝ているようであった。顔に乗せられた白い布。漂う線香のにおい。
寝具の縁に座り乗せられた白い布をそっと外す そこには出会った頃と変わらない美しい顔。見慣れた寝顔。
「もう、そんなに見ないで」
そんな声が聞こえて来るのを期待した
温もりが消えた冷たい頬をそっとなぜ唇を
指でなぞる。
ふふっと帰蝶が笑った気がした。
「帰蝶・・・」
信長は愛しい人の名前を何度も何度も呼んだ。
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