蒼穹の虚ろの街に立つ彼ら

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 次に、「彼ら」全員にはここへ来る前の記憶が一切無かった。  異様な子供たちは、どこの生まれで、どのようにして今まで育ってきたのか、自分たちの周りに居た人間とはどのような関係を築いてきていたのかといった、今までの自分自身を形作って来た記憶を持ち合わせていなかった。  しかし、今の自分を形作る土台となった「原型」が存在していた事だけは「彼ら」全員の記憶の片隅に残っており、自分たちの「前の姿」が身に纏っていた服だけが唯一の手がかりだったが、「彼ら」は記憶が存在しない事には全く気に掛けていなかった。  「前の自分」の生きざまがどんな形であれ、現在の姿で「今」を生きている以上、それに執着し続けるなんて無駄だとすら思っていた。  理想的な楽園ともいえる世界で生きていけるのに、どうしてそれを手放さなくてはならないのだろう。「前の自分」の暮らしてた世界が苦しくて辛かったから、この世界へ来れたのかもしれない。せっかく得たチャンスを棒に振ってまで元の世界へ帰りたいと思わない。本当にバカバカしい。  だが、「彼ら」は名前も失っていたため、仲間内での判別がつかないという不便さは悩まされていた。相談し合った末、仲間内でのトラブルを避けるべく、自分たちが持つ記憶の欠片と持ち物から浮かんだイメージで呼び分けていた。
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