蒼穹の虚ろの街に立つ彼ら

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蒼穹の虚ろの街に立つ彼ら

 空はとても素晴らしい程の蒼穹の色だった。  雲一つない、まさに抜ける様なスカイブルーの晴天は現実味の無い虚ろな伽藍の天井であった。  太陽はギラギラと白く輝き、黒みがかった輪郭を伴った逆光を伴っている。  そこから下に視線を移すと、豪奢で美しい街並みが広がっている。  鮮やかな赤茶色の屋根と白い漆喰の壁で構成された大きな建物が綺麗に並ぶさまは、まるで南欧のプロヴァンス地方を再現したかのよう。  道は綺麗に舗装されており、街の機能維持に必要なモノも沢山用意されている。  あらゆる機能が全て詰まっている公共機関から生活に必要な商業施設、日常生活を維持するためには欠かせないライフライン。  そして、退屈な日常を楽しいものへと変えてくれる娯楽施設。   常に生者を満たすモノが稼働し氾濫し続けているその街は、あらゆるものにとって天国ともいえる場所であった。    その街の南側にはどこまでも続く水平線が広がっており、その彼方には、見た事も無い建築様式で建てられている街の蜃気楼がぼんやりと聳え立っている。  海上に浮かびあがり、揺らめく陽炎の向こう側に映し出されている青みがかった都市は、妖しく艶めかし気な輪郭をぼんやりと滲ませつつも存在感を失うことなく、見る者の心を蜃気楼のベールに包まれた幻想へと駆り立てる。    これだけ見れば、この街はとても過ごしやすい高級住宅地として通用するだろう。  しかし、たった一つこの街には欠けているものがある。    それは、本来の住人が誰一人として存在していないということである。
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