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びゅーてぃふるはふたたびやってくるのだ。
すっこぶる安穏。
「やっぱりあったんやねぇー」とコーヒーをひとくち。すす。
目を瞑り瞼の裏を楽しむ。
それは僕ちゃんが生まれてくるより前の、ようは過去の歴史。
その歴史が現実としてあったのか?
それとも誰かが仕掛けた幻影なのか?
そんなことにいちいち疑問を抱く不思議ちゃん。
名古屋で産まれ、名古屋で育ち、まことに残念ながらそのまんま大人になってしまった。
なんならとびっきりのおっさんに、なってしまった。
さぁ、さっぱりだ。
そのとびっきりのおっさん。
その名は僕ちゃん。
まぁニックなネームだとでも思ってくれたまへ。
Anyway
そぞろと話を始めるとですな?
んーあー。
すると突然!
僕ちゃんは講談のはりおうぎを振りかぶった!ベンベン!
「YouTubeに、違法にアップロードされている古い映像や写真や動画。
著作者の意向にそわず勝手にBOOKOFFに売られた古い書物。
もしくはそのBOOKOFFでも取り扱ってももらえなかったボッロボロの古書、それらすべて。
僕ちゃんにとってそれはそれはスーパー宝物。なのだよ。
そんなスーパー宝物たちを大須観音のフリーマーケット。あー名古屋のね。大須観音や、インターネット、もしくは? んーあー、例えばメルカリとかね? わかる? メルカリ。とかなんかで発見すると、誰かが生きていた、もしくは生きていてくれた証に、やけに安心する。
なんなら感謝したりも、する。
それはもう安穏。
僕ちゃんが生まれる前の世界が確かに存在していたわけだ。
戦後、焼け野原に彷徨っていた人々が、手をとり助け合い、バラックが建ち、そこに道ができ、バスが走り、やがて競うようにニョキニョキと伸びたビルが街にひしめきあう。
名古屋城も、テレビ塔も、もう二度と落ちてこないようにと、この広い空を突き刺し、天に押しつけている。
白黒テレビから鉄腕アトムの主題歌が流れ、人々をワクワクさせたと思えば束の間、映画もテレビも写真も色艶やかなカラーになった。
8時だョ! 全員集合のドリフのコントみたいに、この地球という舞台セットはぐるりと大回転、そしてまた別の舞台セットが現れ、街にはコンビニエンスストアからスターバックスまで、ずらりと並んだ。
建物はどんどんと背高く成長し、経済はブクブクと太った。
スクリーンの中でゴジラもどんどん背が高くなった。
彼は言う「ガオガオガオガオ」。
翻訳するとだな「ビルより低い大怪獣なんてカッコつかないからね」と神の化身は放射熱線をどこの怪獣より芸術的に発射するのだ。
ブワー!
世にも稀なこの世界で、頑張り屋さんはノートパソコンをパカっと開く。
過去、愛おしい誰かの誕生や、涙ぐましい数々の栄光とか、はたまたそれらを覆す戦争や災害などの逃げることしかできなかった問題や、殺人事件のような許しがたい脅威とか、未確認の物体や、生物の目撃者がどんどん増すとしても、確実に感触のある今が本物であるのであれば、素敵な言葉をもちい、物語として未来を象ることが出来るのだ。
そこにはいつも音楽とビールなんかがあるといい。
あ、やっぱりコーヒーかな?
それも出来るだけ濃いやつ。
うんそう。
濃いやつね。
足元にはひたいをスリスリすりつけてくる猫がいて、頑張り屋さん、いや、僕ちゃんは毛並みを楽しもうと猫に手を差し伸べる。
で、そう。猫。
とても愛おしい。猫。
ゴロゴロと喉を鳴らす猫を見下ろしては撫でまわす。
それはそれは幸せな光景だ。
こんな僕ちゃんを何処からか見ている、なんかすごい存在か、もしかしたら愛おしい誰かが、未来からひょいと時空のドアーを開けて、同じテーブルにつくことだって、あるかも知れない。
夢を追い続けることさえできれば、誰の人生だって、それはかならず美しいのだ。
すべては美しい。
これは僕ちゃんが前進する為の物語。
夢と現実が交錯する。
びゅーてぃふるはふたたびやってくるのだ!」
さぁさて、物語をはじめよう。
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