いつもの夢だよ。

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いつもの夢だよ。

 ココアパウダーが降り積もったみたいな砂漠の景色が広がる。  どこにピントを合わせても、そこは砂漠だ。  幻想的だが手でつかめそうな熱も感じる。  ささやかながら風もある。  右の頬に砂埃が断続的にあたるのも感じる。  暑い。  でも木陰があったらひんやりとするような温度と湿度だ。  僕ちゃんは周りを見渡せるくらいの小高い場所に立っていた。  何故そこに立っているのかは、さあさっぱりだ。  すべてが謎という謎に包まれていた。  ただわかっていることは完璧な砂漠というものが存在しているという事だった。  喉の渇きを感じると右手に持っていたハイネケンのボトルを口元にあて、ひと口飲もうとする。  すると中身が空っぽなのに気がつく。  太陽が重なってボトルの中身が透けて見えた。  砂のついた眉間に皺を寄せ足元を見る。  そこには氷のはったバケツがあって、キンキンに冷えたハイネケンが何本もささっていた。  ニヤリとして幸せな気分になった。  さっそく一本頂こうとボトルネックを握った。  確かな重みを感じた。  冷たくて癒された。  バケツからハイネケンを抜き取ろうとした瞬間、右腕の肘から下がなくなって流血していた。  そこに音はない。  バケツの氷水は血の色に染まり、僕はあまりの痛さに叫んだ。  でもどれだけ叫んでもまったく声が出ない。  きっと喉が渇いているせいだ。  もしかしたら声が出ているのに喉が震えない。  よだれが出ているかのような錯覚はあれど、吐き気がするばかりで、何も出てはいない。    すると砂漠の向こう、遥か彼方で煙が上がっていた。  蚊の鳴くようなヘリコプターの音がかろうじて聞こえ、何かがパラシュートで降下しているようだった。  遠くで降る雨のようにも見えた。  大量の何かだ。  何故か痛みのことなんて忘れてしまって、僕ちゃんはその落下物達を見守っていた。  いきなり、目の前が光でいっぱいになった。  空が落ちてきたかと思った。  雷?  いや、わからない。  光でいっぱいだ。  誰もいない教室で、バン! と思いっきり机を叩いたような音がして、僕ちゃんはビクッと震えた。  眉間のあたりが痒くなって、指を伸ばそうとした。  僕ちゃんは右手がなくなったことにうろたえた。  世界は揺れに揺れた。  目眩なんてもんじゃない。  そのまんま、仰向けに砂漠の中に倒れてしまった。  黒目は小さな点になり空が雷の形に割れ、ひびがはいり宇宙がこちらを覗いていた。  「地球は卵だったのか?」  割れ目は雲をどんどん吸い込んでいった。  高性能な掃除機のようだった。  空はどんどん青空になっていく。  まるで音はない。  雲を吸い取ってしまうと、その割れ目から一羽のコウノトリが現れた。  そのコウノトリは嘴に何かを加え、まるでハンモックのようにその何かはぶら下がっていた。  コウノトリは旋回しながら徐々に高度を下げていき、僕ちゃんの上あたりで、曖昧に狙いを定めているようだった。  そして、ぶら下がっていたハンモックを離した。  朦朧とした意識の中、僕ちゃんはハンモックを見ていた。  すると傘のようにパラシュートがひらく。  近づいてくるとそのハンモックの中身が明らかになった。  赤ちゃんだ!  赤ちゃんが一枚の鳥の羽みたいゆっくりとに舞い降りてくる。  光に照らせれて、揺りかごのように、ふわふわと弧を描きながら降りてくる。  僕ちゃんは慌てた。  「た、助けないと」。  僕ちゃんは立ち上がったが今にもこのうえない吐き気で意識が飛んでしまいそうだった。  視界が狭くなり景色の色がどんどん黒くなっていく。  点々と墨汁を垂らしたかのように風景が削られていく。  たとえパラシュートが開いていてゆっくりに見えても、鉢植えが割れるくらいの落下スピードはあるはずだ。  地面が柔らかい砂漠でも赤ちゃんは叩きつけられたら死んでしまう。  ない気力を絞って僕ちゃんはフラフラと立ち上がった。  腕を目一杯広げ赤ちゃんを受け止めようとした。  あと少しのところで、右手がないことに気がついた。  「しまった! 何故すぐ忘れる?!」  残された左手だけでは受け止めることができず、赤ちゃんは地面に叩きつけられてしまい足元にはバケツをひっくり返したように血だまりができていた。  そして僕ちゃんもそのまま血だまりに突っ伏し、同時に死んだ。  世界は揺れ始め完璧な暗闇になると、そこに音はなく滝が逆流するようにバラバラと文字が吹き上がり「僕ちゃん」というデッカいタイトル看板をクレーンで引っ張り上げ、夢の終わりを映画のように告げた。  そしてネズミのキャラクターのような高い声がねむりの扉を強引にこじあけ、大量の爆弾が降り注いでいるかのように揺れた。  夢と現実はゆっくりと交錯する。  まったくもって、どうしようもない気分で。      
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