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TODAY IS THE DAY
もうすぐ、マンションの一室にかまえた僕ちゃんの事務所に地下アイドル「ザ・ニャンニャンニャンニャーズ!!!」の三人が来てしまう。
振り付けのレッスンがあるのだ。
絶賛プロデュース中の地下アイドルグループで、世話の焼ける連中だが、それはそれでとてもカワイイのだ。
「ないよー、ないよー、僕ちゃんのiPhone4」今、現時点で振り付けはまだできてない。iPhone4たちも「ない」、どこだ?
「もういい、振り付けは走りながら考える。僕ちゃん! 今のお前ならできるニャン」シャー! ないので、ひとしきり自分に言いきかせてみた。仕方がない。
僕ちゃんは、ひとたびスウィッチが入ってしまえば目標を達成するまで、飛び続けるロケットだ。ようは意外としつこい性格で、言い方を変えれば「頑張り屋さん」なのだ。
「ないよー僕ちゃんのiPhone4たち」世界はもう始まっている、急げ! 迫り狂うイマジネーションにエントロピーは増大し、僕ちゃんの飽和した宇宙は爆発寸前。時間はグングン迫り、そして気も焦る。チキチキマシーン猛レースってとこだな「フムフム、てかない、どこ? iPhone4たち」。
猫耳メイドコスプレ喫茶とのコラボレーションは初の試みで、気合もかなり入っている。
だが締め切りは待ってはくれず、今日がその日、TODAY IS THE DAYだ。
「あ! あったあった普通に生きてる」。
ズートピアの冷蔵庫のドアーを開けてみるとハイネケンのボトルに混ざっって白いiPhone4が2つしっかり冷えていた。
それぞれ赤のカバーと青のカバーでしっかり包まれていた。
カウンター内のモルタルの床にはハイネケンの空き瓶が放置されていた。つま先にあたってキーンと音をたて、くるりとまわっている。
僕ちゃんはそれを可愛く思っていた。まとわりつく猫でも見るみたいに。
Perfume/Dream Fighter
が流れる。
青いカバーのiPhone4にささったイヤフォンからシャカシャカと音がリピート再生で流れっぱなしになっていた。
毎度「~生きている証拠だから~」のところでなぜか感情が込み上げて涙ぐんでしまう名曲だ。
やってくれるぜ、中田ヤスタカ。めっちゃリスペクト。
使えるのが不思議なくらいの古いほうきを持っているピーマンに「アディオス! アミーゴ! 地獄で会おう」と別れを告げ左右の耳にイヤフォンを装着した。
新しい世界はいつだって音楽が、列車やバスや馬車のように遠くから運んできてくれる。
もしもそばにあった場合は、気がつかせてくれる。きっと雨や風だってそうだ。もしかしたら運命も音楽にのってやってくるのかもしれない。運命そのものがあればだが。
Daft Punk/One More Time
が流れる。
運命の分岐点を切り替えるための曲を選択し、スタートボタンを押す。
うまくタッチできずスタートしなかったので、もう一度タッチする。
美しいシンセサウウンドとダンスビートが流れ出し僕ちゃんの調子も上る。
Zootopiaから事務所まで走って3分30秒、Zootopiaの入っている7階建のビルのエレベーターと事務所のマンション5階までの階段を合わせたら4分50秒。途中二つ信号があるが、そんなものは赤でも突っ切って、無視だ。
西へ向かって東山通りを僕ちゃんは「ホッホ」と走った。
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