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「逃げて!私から離れて!」
あっという間に、人の波に呑まれ、彼女は彼の視界から消えた。
??ごめんね、なんて届かないよね。
束の間の思考。彼は決断する。
ふぅ、と息をつく。やっと〝ヒト〟から遠ざかったところだ。考えていたのは、もう8年も前のこと。いや、たったの8年、かもしれない。
逃げ続け、逃げ続けている。たくさんの別れを繰り返して。きっとこの国の誰もが彼のことを笑うだろう、[自ら不幸になった者]だと。
風が鳴り、〝ヒト〟の声がする。笑い声が聴こえる。
もう、誰も、彼の味方は、いない。
「だから、これで本当に終わり」
そう言ったそばから、足元が崩れ、自分の[終わり]を意識する。
彼女が最後に触れた人差し指に、意識が集中して。しかしそんなことは、この状況では全く意味を成さない。
〝ま だ い き て る の に〟
??風となり、君のそばへ。
結局どんな形でも良かったのだ、彼女と一緒にいられるのなら。
さぁ、もう何も考えることはない。
これからはずっと、彼女のとなりに。
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