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彼女はぐっと唇と噛んだようだった。
こいつが先輩の事を好きだったのはなんとなく知ってた。
言いださなくてもその表情やら視線の先やら、声のトーンやらでみんな分かる。生まれた頃からのお隣さんだ。
そして今日、こいつはその思いを伝えに行ったのだ。こいつの友達がこいつに頑張ってねとか、きっとうまく行くよ言っていたのをちらっと耳にしたから、ああそうなんだなと思ったんだ。
知ってんならさと彼女は言って、そしてしばらくまた黙っていた。
そしてかなり間をあけた後に小さな声で続けた。
「何か優しい言葉かけてよ。」
「駄目だろそれは。」
俺は顔を向けずに言った。
相手はまたしばらく黙っていたが、もっと小さな声で言った。
「チャンスかもしれないじゃん…。」
「なんのだよ。」
俺はこいつと反対の方を見ながらそう答えた。
「知らないけど…。」
相手がそう返事するまでにはかなりの時間がかかった。
俺はちらっと俯いたこいつの頭を見て、またパンを見た。
「俺はな、そう言う卑怯な事はしねぇの。お前もふらふらしてんじゃねぇよ。変な男に良い様にされちまうぞ。」
何か気配が俺の方を向いたっぽいが俺は顔を向けなかった。
そのあとぐしぐしと肩に振動が伝わったから涙でもぬぐったのかもしれない。
「なにさ、美少女にくっつかれてむらむらしているくせにカッコつけちゃって。」
「て、てめぇ、言いたい事言いやがって。イケメンにすり寄ってくっついてきたのはどこの痴女だよ!」
「イケメン?どこどこー?おーい!イケメーン!でてこーい!」
ぱっと立ちあがった彼女は解り易す過ぎる『人を探す仕草』できょろきょろしてみせた。
「おーおー、そうだったな、俺は惨めでマヌケな奴だったな。」
「おー!マヌケならいたぞ!はっけーん!あはははは!」
こいつはそう言って笑った。
俺はもう一度変顔を作ってやった。
再び彼女が笑い声を上げる。今度はさっきよりましな笑い方しているじゃないか。
俺は変顔のまま相手に近づいて行った。
「わー!くるな!こわいこわいこわい!」
笑いながら彼女が逃げる。けど、決して距離を開けようとしない。
こいつは傷ついているんだ。
俺がそれを癒して上げられると良いな。
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