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放課後、学校の中庭の花壇の前のベンチに腰掛けて、そこに住みついているドバトにパンくずをくれてやるのが俺の趣味だ。
何が楽しいと言う訳じゃないが、こいつらの喉を鳴らす音とか、ひょこひょこ動く頭とかを見ているとなんだか落ち着く。
逆に落ち着きたい時はこいつらを相手にするのも手の一つだ。
こいつらもだいぶ俺に慣れたのか、かなり近くまで来てパン屑を拾っていく。中には手から食べる奴も出てきた。
ほら、あの一羽も近づいてくる、ホレコイコイ。
と、その場にいた全羽が一斉に羽ばたいて去った。
俺はパンをちぎるのだけをやめて何事も無かったかのようにそのまま居た。
隣に来て座った気配は少しそのままで居たが、ついと少しだけ寄ってきた。
俺は持っていたパンを半分にちぎって顔を向けないまま左手で向けた。
「ハトじゃないし。」
なじんだ声が隣で小さく答える。
しばらく沈黙が続いた。
そして相手はまたついと近寄った。結果俺の体とあいつの体がほんの少しだけくっつく。
「なにさ。」
俺はわざとそう言った。
「あたしより惨めなマヌケの隣にいると安心するのよ。」
「マヌケってのは… こんな顔の奴か?」
できうる限りの技を駆使し、俺は渾身の変顔を相手に向けた。
相手は予想していなかったのだろう、顔を膨らませて吹き出すとそのまま顔が爆発しそうな勢いで大笑いを始めた。あたかも自分が年頃の少女である事さえ放棄するようなそんな不自然な大爆笑だった。
彼女は激しい笑いの中で息も絶え絶えに必死になって言葉を紡いだ。
「ひーっ!…なにそれっ!… ああっ! ごほごほ… ばかみたいっ どうやったらそんな顔できるのっ! ひーっ! もうっ!」
そう言いながらばしんばしんと俺を叩いた。それは本気で痛かった。
俺はそれには留まらず、次々と新しい顔でこいつを攻撃した。
彼女はその度に狂ったように笑い声を上げ、涙目で俺を叩き、苦しがった。
そして
そのうち完全に泣きだした。
俺は頭にポンと手を置いて、そっと撫でてやった。
「ばかー!ばかにすんなー!ばかーっ!」
「してねぇよ。」
こいつは俺の肩に顔を乗っけて本気で泣きだした。
俺はただ黙って背中を撫でてやった。
しばらくして落ち着いてくると相手は知ってんでしょと呟くように言った。
「多分な。」
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