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違和感を感じ始めたのは、付き合ってそう経たない時期からだった。
デートで二人並んで歩いていると、たまに皆人が明稀を怪訝そうな顔で見るのだ。そんな時は明稀の方も彼からの冷たい視線に一瞬ぎょっとしてしまうが、それを誤魔化す為、すぐに笑顔を皆人に返した。そうすると、皆人の方は、「不味い」という表情を見せた後、慌てて明稀好みの顔で笑顔を作った。
デートの都度、皆人はその視線を度々明稀に向けた。明稀はしばらくの間、皆人からの視線の意味を分からないでいた。バイト中は穏やかな表情が多い皆人だが、プライベートでは怪訝な表情が標準仕様の人なのかも知れない。そんな理由を付けて、目線の温度の低さには目を背けていた。
ある日のデート中、皆人は歩道に面したディスプレイを指差して言った。
「由利、これ見てみろよ」
皆人は明稀を振り返るといつもの怪訝な表情を浮かべたが、すぐに失敗に気付き、流石に笑顔を作る余裕もなかったか気拙そうにそっぽを向いた。
明稀は、ついに認めなければならなかった。それまで度々皆人から向けられていた視線の意味とは、「なんで隣にいるのが『由利』じゃなく、お前なんだ」ということだったのだ。
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