隣の彼女

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*  それはゴールデンウィークの最中だった。  バイトの休みを合わせた二人は人で混み合う歩行者天国を、昼食を食べる店を探しながら歩いていた。人気のある店で食べる為に敢えて行列に並ぶか、多少地味な店でも並ばずに済ますか、二人が決めかねていると、「皆人くん!」とよその女性が彼氏の名前を呼ぶのが聞こえた。  その時の、皆人の反応は早かった。すぐに声の主を無数の顔の中から探し出し、見つけた女性を一心にみつめた。 「久し振り。こんなとこで会うなんて。元気?」  人混みの中から現われたのは、上が白いブラウス、下がデニムパンツといった何気ない服装であるのに、妙に色気と華を感じさせる長身の美人だった。 「あ、あぁ…」  皆人は明稀にとって一目惚れの相手だ。だというのに、ろくに返事もできない彼の姿が目の前の美女と比べると大分見劣りするように見えてしまった。 「あ、隣、彼女さん?かわいい」  同性でさえもドキリとさせられる笑顔を向けられ、思わず明稀がギクシャクと会釈をしたその時だった。 「いや、バイト先のコ」  反射的に明稀が皆人の方を見ると、皆人は明稀には横顔を向けるばかりで、女性の方を真っすぐ見ていた。 「そうなの…。あ、私は皆人くんと同じ高校だった…」 「由利!先行くぞ!」  美女が明稀に自己紹介をし始めた途端、彼女の後ろから怒鳴る様な声がした。声のした方向には、少々ガラの悪いファッションの背の低い男がいた。 「あ、はぁい!突然話しかけちゃって、ごめんね。じゃあまたね」  由利と呼ばれた女性はもう一度笑顔を向けると、ぼんやり立っている二人を置いて、低い身長のせいで今にも雑踏に消えていきそうな男の背中を追いかけて行った。
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