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それは、ほんの短い時間の出来事で、二人の目の前の光景はすぐに平凡な休日の繁華街へと戻った。
しかし、明稀の心持ちは由利という女性が登場する前とは全く変わってしまっていた。今、明稀の目の前で白いTシャツの背中を向けている彼氏。彼は明稀と交際していることを本人のいる前で否定した。好きだと告白して、「俺でいいなら」と受け入れられ、一緒に映画に行き、遊園地に行き、ドライブに行き、カラオケに行き、キスして、ハグして…他にも。ここ三ヶ月の恋人然としたあらゆる行為は、なんだったのだろうか。
背中を向けたまま、もう永遠にこちらを見ることも無いのではと思われた皆人が、おそるおそる明稀を振り返った。彼の表情は、いかにも済まなそうな…しかし、許してくれるだろうと信じきっている甘えたものだった。
こんなやつだから、さっきの『由利さん』にも振られたのだろう。そんな考えが明稀の頭をよぎったが、彼女の口からはそれとは全く違う言葉が出ていた。
「さっきの彼氏、あんまりカッコよくなかったですね」
皆人はもう隠そうという気もないのか、明稀の言葉に喜色を浮かべた。
なんでこんな男と付き合っているのだろうと、なんでこんな男の機嫌をとっているのだろうと、明稀は目の前の男に対する以上に自分に厭きれた。だが、皆人の心が誰に向けられていようと彼の隣にいることへの執着を捨てられない自分の気持ちについても、どうしようもなく自覚してしまっていた。
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