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何だか恐ろしげな話になってきた。ルイスの表情の変化に気づいたのか、男はにやにやと嫌な笑いを浮かべた。 「不審に思った町の連中が、数人で城を訪ねたそうだ。だがその医者が旅人を襲ったような形跡は見つからなかったらしい。ただ、美しいドールがあったと」 「ドール?」 「ビスクドールだ。陶器の肌に青い目、真っ赤なドレス。一人暮らしの医者の部屋には似合わない代物だ。それがダイニングのイスに座っていたそうだ。屋敷の主の隣にね」 「亡くなった娘さんの物ですかね?」 故国で家族を亡くし、余生を南国で過ごすことにした。あり得そうな話だった。遺品の人形をテーブルに並べる。なかなか悲しい話だ。 「ところがその男は取り立ててそのドールをかわいがっていたわけではないらしい。尋ねた連中は午後のお茶を一緒に飲んだらしいが、医者はそのドールについて一切話さなかった。視線も向けず、もちろんドールにお茶を出すこともない。どちらかというと恐れていたようなそぶりだったと」 「はあ」 女の子の玩具を怖がる男がいるだろうか。だいたい怖いのなら落として壊してしまえばよいのだ、ただの人形くらい。     
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