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「さて、その後も行方不明者は増え続けた。どう考えてもその城がおかしい。町の連中もわかっていたが、何もないのに男をしょっ引くことはできないからな。手の打ちようがなかった。だが、とうとう城の近くを巡回中していた衛兵が撃たれる事件が起きた。城から撃たれた。仕留めそこなったんだろうな。それで城に調べが入って、行方不明者の衣服が何枚も見つかった。だが、死体は見つからなかった。城の中だけでなく地面も掘り起こされたが、死体はなかった」 「それでその医者は?」 「捕まったとか村人によって私刑にあったとか」 「つまり城からいなくなったと。ならば今は安全ですね」 連続殺人鬼に殺されることはない。 「おや?」 「南の街道を通って首都へ行く予定でして」 「朝にここを出ると、城の側で一泊することになる。村には宿場なんぞない。城は無人だが雨風くらいはしのげるだろう」 「助かります。一杯の値段で役に立つ情報が聞けました」 人殺しの行われた城で夜を過ごすのはぞっとしないが、野営よりかはマシだろう。村でうろうろとありもしない宿を探す手間が省けたのは、酒一杯の値段よりも価値がありそうだった。 じっと、男が見ていた。鋭い眼光は汗で湿った肌を抉るようだった。
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