隣よりも近く

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隣よりも近く

 私は小さい頃、いつでもお母さんの隣にいた。そこがいちばん居心地が良かったから。  「ただいまっ。ママ―!」  ランドセルを学習机のイスにドサッと置いて、リビングに向かう。  ねえねえ、と今日学校であったことをしゃべりながら、座っているママのひざにもたれた。  「はい、おかえり」  ママは振り返ってわたしの両腕を抱くように受けとめた。テーブルの上に広げていた紙やボールペンを隅に寄せて  「おやつにクリームパンを買ってあるよ」  と言って立ち上がり、お菓子がしまってある戸棚から、小さなクリームパンが並んだ袋をとりだしてみせた。  「やったぁ!何個食べていいの?」  「お兄ちゃんと半分こだから、二つね」  「うん」  わたしはクリームパンを受け取ると、冷蔵庫から牛乳を出した。お気に入りの両手付きのコップに注いで、まずは上を向いてぐーっと飲む。  「ああ、おいしい!」  もう一度牛乳をなみなみと注いでからコップのフタをしめた。フタには長い飲み口があって、吸って飲めるようになっている。  その飲み口からちょびちょび牛乳を飲むのが好きだった。     
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