隣よりも近く

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 今になって母に迷惑をかけた一つ一つを思い返していくと、自分の行いが恥ずかしくて頭を抱えたくなるくらい。  私は、母みたいにはできないだろう。  お腹をさする。もう皮膚はパンパンでその中は固く、大きく出たお腹に常に全身が圧迫されている感覚がある。こんなにふくらむものなんだなあ。  ベランダに目をやると洗濯物を干しているお母さんが目に入る。数日後に予定日を迎える私のために、当然のように遠くから駆けつけてくれた。  三十年近く。これまでずっと、今でも、こんなにあまやかしてくれる。  ――――――ふう。私にはとてもできない。私は私のできる範囲でやろう。  お腹の中の子に届くかな、と思いながら、ぽんぽん。“よろしくね”とそっとたたいた。  ――――――それから61時間後、私は一人の男の子を産んだ。  確かに、日々私のお腹の中で蹴ったりしゃっくりしたりと動いていたのだけれど。  それが外へ出てきて声をあげたとき、私は一人の人間が自分の中から出てきたことをはじめて実感し、驚き―――心から感動した。  人間って、まあなんて未熟な状態で生まれてくるのだろう。  たっちゃんが生まれてきたとき、そのあまりの小ささ、儚さにびっくりした。     
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