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受付近くのソファに座ると、店員の男が紙コップを手に近づいてきた。
「眠れませんか」
店員は俺に、水の入った紙コップを手渡した。
あれほど不愛想だった店員が話しかけて来たことに、俺は若干驚いていた。
「ありがとうございます。あの、一番奥の個室って誰か自殺した人とかいますか?」
「ああ、いますよ。俺が知ってるのは、首つりだけだけどね。俺、見ちゃったんだよね」
そう言う店員の表情は、嫌そうではなくむしろ嬉しそうに話していた。
そんな店員に、隣の女のことを尋ねようか迷っていた。
すると、おもむろに店員は俺の隣に座った。
「心配しないでください。彼女は優秀ですよ。後のことは、お任せください」
「は?」
店員のその顔は何かを知っているようで、口元はわずかに綻び、その目は快楽に似た、こちらとしては感の障るものだった。
その瞬間、店員から受け取った紙コップの水に疑心が生まれた。
もしかしたら、毒でも入っているのではないかと。
「俺は、死ぬ気はないから」
そう言って、俺は紙コップを店員に突き返すと、店員は「なんだ」とつまらなそうな顔をして立ち上がった。
そして、水が入った紙コップをそのままゴミ箱に捨てた。
俺はあの個室で眠ることが出来ず、荷物を取りに戻るとそのまま漫画喫茶を出た。
店員の男は無言のまま、ただ名簿らしきものを見つめていた。
結局、俺は外の駐車場で一夜を過ごし、修理屋が来るのを待った。
幸い、バイクの修理はその場で直すことが出来て、職場には昼までには向かうことが出来た。
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