赤の店、青の店

6/6
前へ
/6ページ
次へ
「ねえ、あいつ、まだいる?」 テシモさんがヒソヒソと訊ねました。 「ええ、いるみたいね。」 ニシモさんもコソコソと答えます。 秘密の窓は、テシモさんとニシモさんのお店を繋ぐ、顔ひとつ分程の大きさの正方形の窓です。仲良し姉妹は、違うお店をやっている間も、合間を見つけてはここを開けてお喋りをするのです。 「あたしたちの店を比べて、品定めでもしてるのかしら。出たり入ったり、失礼しちゃうわ。」 テシモさんは声もひそめながらもご立腹のようです。そんな彼女を尻目に、ニシモさんはやるせない様子で呟きます。 「彼にも色々と考えがあったのでしょう。私たちだって、本当は2人で店をやりたかったけれど、こうしてお隣さん同士、めいめいの好きな店をやるって決めた。だから2人して野垂れ死ぬなんて結果にはならなかった。あれもこれもと言っているうちに、ぽろぽろと色々なものが手から滑り落ちていくの。そういうものよ。」 「見てごらん。あの人、丘を登っていくよ。」 入り口の小窓から、街灯に照らされた小さな背中が見えました。 ずんずんずんずん、今度ばかりは迷いのない足取りで、家に帰って行くのでした。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加