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「ねえ、あいつ、まだいる?」
テシモさんがヒソヒソと訊ねました。
「ええ、いるみたいね。」
ニシモさんもコソコソと答えます。
秘密の窓は、テシモさんとニシモさんのお店を繋ぐ、顔ひとつ分程の大きさの正方形の窓です。仲良し姉妹は、違うお店をやっている間も、合間を見つけてはここを開けてお喋りをするのです。
「あたしたちの店を比べて、品定めでもしてるのかしら。出たり入ったり、失礼しちゃうわ。」
テシモさんは声もひそめながらもご立腹のようです。そんな彼女を尻目に、ニシモさんはやるせない様子で呟きます。
「彼にも色々と考えがあったのでしょう。私たちだって、本当は2人で店をやりたかったけれど、こうしてお隣さん同士、めいめいの好きな店をやるって決めた。だから2人して野垂れ死ぬなんて結果にはならなかった。あれもこれもと言っているうちに、ぽろぽろと色々なものが手から滑り落ちていくの。そういうものよ。」
「見てごらん。あの人、丘を登っていくよ。」
入り口の小窓から、街灯に照らされた小さな背中が見えました。
ずんずんずんずん、今度ばかりは迷いのない足取りで、家に帰って行くのでした。
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