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小さな港町に、テシモさんとニシモさんという仲の良い姉妹が住んでいました。
幼い頃から大の仲良しで有名なふたりは、おばあちゃんになった今でも仲良く一緒に暮らしています。
町の大通りは、夕方になると大勢の人で賑わいます。慌ただしい朝が過ごし、昼間は家でのんびりして、陽がそろそろ傾くという時間になって、みんな買い物やお茶に出てくるからです。お姉さんのテシモさんの紅茶屋さんは特に人気があります。ひときわ目立つ赤いパラソルの下には、たくさんの人が出たり入ったりして、とても賑やかです。ニシモさんのコーヒー屋さんだって負けてはいません。上品な青いひさしをめがけて、毎日のように通う常連さんが大勢いるのですから。真っ赤な扉と真っ青な扉は隣どうし並んで、それぞれのお客さんを迎えています。ふたつの店は、元々はひとつでした。そこはテシモさんとニシモさんの両親が経営していた酒場だったのです。はじめはその酒場を姉妹で継ぎましたが、うまくいきませんでした。大の仲良しのふたりではあるものの、性格は全くの正反対でした。
「姉さん、あのお客さんは飲みすぎよ。もうここら辺で止めないと、体に悪いわ。」
とニシモさんが言うと、
「平気よ。私たちの役目は、お客さんが望むだけのお酒を提供すること。心ゆくまで楽しんでもらわなくちゃ。」
と言ってテシモさんはお酒の瓶をベロベロに酔っぱらったお客のテーブルへと持っていくのでした。
「お客さんの健康を考えることだって、私たちの仕事のうちよ。」
ニシモさんがお酒を回収しにテーブルへとかけて行こうとすれば、
「店の人にお節介焼かれちゃ、お客さんだって興ざめでしょ。」
テシモさんがその腕を引っ張り、そのまま揉み合いになることもしばしばでした。
そんなこんなで一緒に仕事をすることが不可能だと悟ると、ふたりはそのレストランをちょうど真ん中で仕切り、看板を作り変え、めいめい好きなものを提供する別の店を始めました。しかし、お店は違っても、夜になるとふたりはそれぞれのお店を閉め、同じ家に帰っていくのです。
「近頃はあまりに寒いせいか、お客の入りが悪いわ。まったくもう、嫌になっちゃう。」
「あら、そういう時こそ編み物をする時間ができたってものじゃない。」
「うふふ。それもそうね。ああ、久しぶりにあんたの淹れたコーヒーが飲みたいわ。」
こんな具合にふたり笑いながら、楽しく夕食をとるのです。
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