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冷たい風の吹きつける、雲り空のある日のことです。一人の男の人がふらりと通りに現れました。彼はゴシップ記者で、この町に大女優が不倫相手とお忍び旅行に来ているという噂を聞きつけて、やってきました。しかしどんなに嗅ぎまわっても、証拠となる写真1枚どころか、目撃情報すらも掘り出すことが出来なかったのです。それでも何かしらの記事にして仕上げなければなりません。そういう時は、聞きつけた噂と、町の風景をもとに想像でその女優の不倫劇を考えるのです。たとえ本当のことではなくても、面白がって読んでくれる人はいるものですから。原稿は今晩のうちに送る約束でした。そういう訳で彼は通りのどこかの店で原稿を仕上げようとあちこちと歩き回りました。そしてテシモさんとニシモさんのお店を見つけたのです。どちらに入ろうか、お店の看板を見比べながら少し考えましたが、海風の冷たいこんな日にはポットに入った温かい紅茶をたっぷり飲みたいと思い、テシモさんの店の真っ赤な戸についたピカピカの金の取っ手を掴みました。
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