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少々騒がしいですが、明るい店内の雰囲気はそう悪くありません。ちょうどひとつ空いていたテーブルに案内されました。木でできた椅子に腰掛けると、思いのほか固いことが分かりました。
「店自体は悪くは無いが、この椅子に座っていちゃあ、腰が痛くなっちまうな。」
というのも彼は腰痛持ちでしたので、普通の人が腰掛ける分には問題なさそうでも、やはり少し不安でした。最近は原稿料もあまり上がらなくなってきています。ここで具合を悪くして働けなくなったら、生活は更に厳しくなるでしょう。それにやはり、店が騒がしいのも少し気になりました。こういう風に人の多く集まる場所では知らない人々の会話に耳を傾けるだけで色々な情報が耳に入ってきます。本当に書くことに集中したいのであれば、うるさすぎず、静かすぎず、丁度よい空間を見つけることが大切なのです。メニュー表を見つめるふりをしながら、彼は隣の青い扉の店のことを考えていました。
「あっちの店の方が、良いかも知れないな。」
そこで彼はメニュー表を置いて店を跡にしました。木枯らしに吹かれながらそそくさと隣の青い扉の前まで歩き、銀の取っ手を引くと、そこにはとても静かな空間が広がっていました。
「いらっしゃい。」
痩せこけたおばあさんが少しぶっきらぼうに言いました。ニシモさんです。
テシモさんの紅茶屋さんとは違い、お客もまばらのここはとても静かです。古い木の壁と真冬の海が見渡せる大きな窓の空間に、ピアノの音が染み渡っています。
「おかみの愛想は隣の店の方が良かったが、こっちの店の方が静かだし椅子の方が座り心地も良いな。」
ふかふかのクッションの張られた椅子に腰掛け、ゆったりと大きなテーブルの上でメニューを開いた記者はウッと唸りました。一杯一杯丁寧に入れているというそのコーヒーは、少し値段が高かったのです。原稿料は上がらない上に、税金は高くなる一方のこの頃です。こんなに毎日四六時中働いて、それでいて出費の方はケチケチやって、やっとのことで生活が回っていく程なのです。
記者はここでも、考えこんでしまいました。この町は朝から色々と歩き回りましたが、他に原稿に取り組めそうな店はありません。そして、さっきの赤い扉の紅茶屋さんのことを考えました。あの紅茶屋の椅子がもう少し柔らかければ、周りのお客がもう少し静かだったら。こっちの店の方が環境は良いが、費用を考えるとー。
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