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定食屋の前で肩を落としていたが、元はといえば自分が家を出るのに手間取っていたせいなのだから、と切り替えて入り口の扉に手をかけた。
ガラガラガラ。
扉を開くとみそ汁の香りが漂ってきた。
「いらっしゃい」
いつもの店員の声が聞こえてくる。
店内はお客さんであふれていた。
「今日は来ないのかと思ってたよ」
「いえ、ちょっと家を出るのが遅くなってしまって……」
「ほら、いつもの席へどうぞ」
そう言うと店員はカウンターの奥の席を指差した。
「えっ!?」
いつもの席を見ると、一番奥とその隣の二席が空いていた。
驚いて席に座ると、カウンター越しに、
「いつものやつでいいんだろ?」
大将がお茶を差し出してきた。
「えっ、あっ……、はい」
「あいよ!」
返事をするとすぐ料理にとりかかっていた。
男は不思議そうな顔で店内を見回した。
ふと、店員と目が合うと、にこっと微笑み返された。
男は顔が赤くなり、ごまかすようにお茶をすすり、いつもの席でいつもの定食が出来あがるのを待っていた。
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