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「やっぱり遅かったか……」
男と道路を挟んで向かい側に見えるのは、一件の定食屋。
チェーン店でもないのでそこまで大きな店でもなく、特別綺麗に見えるわけでもない、どこにでもあるような定食屋である。
入り口から店内の様子が見える。
満席というわけでもなさそうだが、忙しそうに店員が注文をとったり、料理を運んでいる。
時計は十二時を少し過ぎていた。
「……しかたない、どこかで時間つぶしてこようかな」
男は右手で頭をポリポリとかきながら、定食屋の様子が見える近くのコンビニに向かった。
毎週土曜日の昼食は決まってこの定食屋で食べていた。
料理の味はもちろんのこと、大将や店員の雰囲気も気に入っていた。
初めて訪れてから何度か通っているうちに、毎週土曜日に顔を出すのが当たり前になっていた。
今日もそのつもりで定食屋に向かったのだが、いつもより家を出るのが遅かった。
そのため店内は客でいっぱいになっていた。
満席ではないので、店に入れば席に案内してもらえるだろう。
しかし、それではいつも通りではなかった。
男はこの店のカウンターの一番奥の席で食べることが好きだった。
それも、隣りに誰も座られていない空間で。
そのお気に入りの席を指定しているうちに、店員からその席は案内されるようにもなっていた。
だけど、店の込み具合から察するに、今日はその席は空いてそうにもない。
男はコンビニで立ち読みをしながら、ちらちら店の様子をうかがっていた。
出ていく客が何人かいたものの、入っていく客も同じくくらいいた。
時計の長針が半周ほどしようというときに、男は立ち読みしていた本をそっと置いた。
小さくため息をついて、
「残念かもだけど……、そろそろ行ってみるか」
コンビニを後にして、定食屋に向かった。
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