光の道

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 答辞、卒業歌、在校生校歌斉唱。  二年間、事あるごとに歌わされたおかげで、頭を空っぽにしたまま口を動かしていると、後ろから背中を叩かれた。 「佐野、早く準備して!」  女子の列からわざわざやってきたのか、部長の紺野が叩いた拳をグーのまま、小声で短く言った。  黒い人混みを静かにかき分けて体育館の端を進み、卒業式のスケジュール表が貼ってあるホワイトボード裏に隠れている細階段を上がる。 「卒業生の歌で吹奏部員は移動って、昨日連絡したでしょ」 「……そうだっけ」  ずんずんと前を行く、馬の尻尾のように束ねた長髪がピタリと止まる。 「アンタね、坂梨先輩に振られたからっていつま――むがぐ!」 「どこから漏れてんだよ、その話」  踊り場とも呼べない狭い通路では、紺野の口だけを塞ごうにも、小柄な彼女を壁に押し付ける体勢になってしまう。 「リハーサルの日。体育館の裏で佐野と坂梨先輩を見たって。クラスの人から聞いた」  批難がましい目をむけられて思わず顔をそらす。客観的に見れば事実かもしれないし、違うと説明するには切迫した今だと時間がない。口を開きかけては言葉に迷っていると、紺野は体をよじって二階に上がっていった。  普段は屋内の観戦時にしか使われない狭いキャットウォークに、他の部員が各自楽器を準備していた。紺野は不安そうな一年部員に手順を確認させ、上階に視線を向けられないよう同級生たちに静かに移動を細かく指示する。  すでに他の男子部員は一年生と共に通路の奥で待機しており、ずらりと並んだ楽器と部員のただでさえ場所を取る配置を通ることはできなかった。  校歌斉唱が終わってサクソフォンを持ち上げた佐野は、クラリネットを携えた紺野の隣で座奏することになった。 「閉会の辞――」  司会の教員が短く閉会式の言葉を締めくくると、無言の館内が慌ただしく流れていく。  指揮棒を持った顧問が吹奏楽部から対岸のキャットウォークへ移動し始める。出だしを外さないように、全体の意識が指揮棒へ集中していく。 「卒業生、退場」  パイプ椅子の軋みが響き、立ち上がって振り返った卒業生が花道に列を作ると、演奏が始まった。
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