ハプニング

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ハプニング

半ば自意識過剰な被害妄想に囚われつつ、レジに缶ジュースを出した。ピッというバーコードを読み取った電子音の後に、 「100円です」 お決まりの台詞を彼は事務的に告げる。 私は小銭入れから100円玉を取り出す。 ふと。指に違和感を感じる。 違和感に目を落とし、私は青ざめた。手にした銀色の硬貨には、立派な穴が空いていた。そう、それは50円玉だった。 不測の事態に私は完全に固まった。店員はそんな私に訝しげな視線を向ける。 50円玉と100円玉を間違えるというのは、そんなに珍しい事ではない。穴が空いているか否かーー両者の大きな違いは、その一点に尽きるからだ。 そして先も述べた通りで、私の小銭入れには100円玉、今日に関して言えばそうだと思っていた50円玉一枚しか入っていない。もちろん財布にはもう少し現金が入っているが、それは鍵のかかった会社のロッカーの中だ。今は無い。 無駄遣いを防ごうと自分に課した枷が、この様な形で仇となろうとは。私は後悔の念と共に首を垂れた。
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