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「お客様、どうされました?」
「えっ、ああ…」
さすがに店員が声を掛けて来た。
あのですね、と消え入る様な声で話し始めた私は、もうありのままに話す事しかできなかった。
「すみません…。私、100円だと思って持ってきたのが、50円でした…」
「ああ…」
死ぬほど恥ずかしい。多分このコンビニは二度と使えない。
「ええと、それで小銭持ってなくて。なので買えないですね。すみません、これ戻しで…」
缶ジュースを店員のほうへ差し戻す。
しかし、
「あ、ちょっと待って」
踵を返し掛けた私に、店員が声を掛ける。
何だろうと思っていると、彼はジーンズのポケットから何かごそごそと取り出した。
「これ」
「え?」
彼が手にしていたのは100円玉。穴の空いていない銀色の硬貨が、蛍光灯の光を受けてキラリと光る。
「俺の、貸します」
「ええっ?いいですっ。悪いです」
「お客様、毎日来てくれてるじゃないですか。次来た時返してくれたらそれで大丈夫っす」
彼は少し早口にそう言うと、レジに自分の100円玉を入れてしまった。
そしてレシートと缶ジュースを手渡され、思わず泣きそうになった。
「あ、ああ、ありがとうございます!絶対返しますんで!必ず!」
「はい。またのご来店をお待ちしております」
必死な私に、彼は少し笑って頷いた。
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