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それは、知る人ぞ知る彼の不思議な習慣
「あ、ちょうど100枚になったよ」
ぱちぱち、と軽やかな音とともにクッキングシートを敷いたバットに揚げたてのポテトチップスの山が次々とできていく。それを一枚一枚数えながら平らに並べていた私は、最後の一枚を並び終えたところでちょうど100枚になったことに妙な感動を覚えていた。
「108枚のはずが、足りなかったか」
実際にポテトチップスを一から作っていた張本人は冗談とも本気ともつかない表情でそう宣う。
もし本当に煩悩の数にしようと数えて切り分けていたのだとしたら、相当な凝り性である。
個人的には100枚というのは縁起のいい感じがして、彼の意図するところとは違ったとしてもいい兆候なのでは、と思った。
「さあ、仕上げをどうぞ」
塩の入った小瓶を渡しつつ一歩横にずれて場所を譲る。
さらさら、とチップスの上に塩が降りかかる。甘いじゃがいもの香りと塩気が混じって幸せな香りがじんわりと広がってきた。柔らかな黄色が見た目にも美しい。
「おいしそうだね」
「ここら辺のならもういいかな」
口の前まで運ばれてきた一枚をそのままパクリといただく。ほんのりと温かく、じゃがいもの甘さが際だって甘じょっぱい。幸せの香りだと思ったけれど、どこか切なくもあった。きゅっと喉の奥を締め付けられる味だ。宏輔の心が沈んでいる、その深さの分だけ、切なさが味に反映されているのかもしれない。私はそれを食べることを通して、弱音なんてほとんど吐かない彼の気持ちを推し量るのだ。そんな回りくどい方法を何年も続けてきた。
「うん、おいしい。わたし、お茶を淹れるね」
心の揺らぎを悟られる前にと、宏輔の視線に背を向けて薬缶を火にかける。隣からはかさかさと軽やかな音がする。あら熱のとれたチップスをお皿に移しているのだ。
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