第3章 彩矢の危機

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「明日香待って」 欣也の家から無我夢中で走っていた私に彩矢の声が聞こえる。 「もうここまで走れば大丈夫かな。」 「うん」 「そうだ。携帯の記録を消そう」 「うん」 彩矢は欣也の携帯のデータを調べる。 すると裸の彩矢の写真を見つけて、写真データを削除した。 ついでに彩矢の電話番号やLINE、の記録も削除した。 明日香「この携帯、壊しちゃおうか?」 彩矢「その方がいいかもね」 私は、携帯を地面に置き、近くにあった大きな石を思いっきり叩きつけた。 すると携帯は割れ、破片が辺りに飛び散った。 携帯が壊れたのを確認し、二人は大きな道路に出ると、通りかかったタクシーに乗り、新横浜に戻った。 新横浜の駅でタクシーを降り、近くの喫茶店に入った。 席に座り彩矢が思ってもいなかった事を言う。 彩矢「何で欣也は、私を助けてくれたんだろう?」 彩矢には欣也が助けたとしか見えなかったのである。 明日香「最後の最後に悪いと思ったんだよ。きっと」 彩矢「そうか」 明日香「彩矢?でも暴力を振るわれていたのは事実だから、元に戻ろうとか思ったらダメだよ。」 彩矢「うん。分かってる。」 明日香「でも良かったね。無事、別れられて」 彩矢「別れたのかな?」 明日香「うん。別れたんだよ」 すると、彩矢の眼に涙が溢れる。 明日香「どうしたの?」 彩矢「面白いね、こんな事があっても、あいつのいい所ばかり思い出しちゃうんだもん」 恋愛経験の無い私は相槌するしか無かった。 明日香「そうか」 彩矢「うん。ずるいよね」 二人はコーヒーを飲み終え、喫茶店を出て駅で別れた。 私は電車に乗ると、斉藤君の事を思い出した。 (あっ 斉藤君は?) (ここですよ) 私は前を見る。すると斉藤君が怒った表情で私を見ていた。 (後を着いて来てしか言われていないから。ずーと追いかけていたんですけど) (あっ ごめんね) (タクシーに乗ったから、慌ててタクシー捕まえて、新横浜で二人を探して喫茶店にいるのを確認してから、ずーと喫茶店の外で待ってたんですけど) そうとうむくれているのが分かった。私は苦笑いを浮かべ (喫茶店に入ってくれば良かったのに?) (もし、欣也が来たらまずいと思って外で見張っていたんです) (ありがとうね。本当に助かったわ) でも、まだむくれている。 私は話を誤魔化した (そういえば何で、あそこにいたの?) (今日は病院に行ってきたんですよ。そしたら、ラブホテルで明日香ちゃん見掛けて・・) 段々、斉藤君の態度にいらだちを感じ始めた。 (もう。いつまでもむくれないで。ちゃんと謝ったでしょ) すると、態度が急変した (ごめんね。明日香ちゃん。ちょっとやり過ぎちゃった) (もう頼まないからいいわよ) (そんな) 斉藤君の情けない顔を見て、思わず吹き出してしまった。周りの乗客は何だろうと思ったのか、私を冷たい眼で見ていた。 そんな私を見て、斉藤君がこっちを見て笑っているので (あんたは笑うな) (はい)と返事が返ってきた。 (ところで、斉藤君は分身になれるの?) (僕が?) (だって、さっき分身の姿形で部屋に入って来たわよ) (明日香ちゃんを助けたいと強く思ったら、勝手にドアをすり抜けて中に入っていたんだ) (でもどうして、欣也の中に入ったの) (実は、偶然だったんだけど、バランスを崩して欣也の所に転んだら、中に入っちゃったんだ) (分身がバランス崩すなんて事あるの?) (本当に実際の身体で動いている感覚だった) (そうなんだ) しばらく電車に揺られ、本来だったら斉藤君が降りる駅に着くと斉藤君の声がした。 (今日は遅くなっちゃったから家まで送ってくね) (いいわよ、一人で帰れるから) (どうせ家に帰ってもやる事ないから、大丈夫だよ) 斉藤君のお母さんの話も聞きたいので (そう。じゃあお願いするわ) そして、駅に着き二人で改札を出て、喫茶店まで二人で歩く。 「お母さんは大丈夫だったの?」 「うん。母は大丈夫なんだけど。どうも病院の方が気になる。」 「病院が?」 「うん。職員の心の声が聞こえるんだけど、皆、すぐに退院させないといっている。」 「何で?」 「分からない。本人も大丈夫そうだったし」 「パパに言ってみようか?」 「マスターが聞いたら、怒鳴り込みに行きそうで、違う意味で怖いかも」 「確かに」 「でも、多分高校生だからと思われているかも知れないから、もしどうしようも無い時はお願いしようかな」 「その時は言ってね。私が頼んであげるから。今日のお詫び」 「そんなお詫びなんて」 斉藤君の心の声が聞こえた (明日香ちゃんの下着が見れたし) 私は斉藤君を睨んだ。 まずいと思った斉藤君は、喫茶店に着くまで、ずーと謝っていた。 長い長い一日が終わった。
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