第3章 彩矢の危機

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土曜日 今日は母の退院の日である。 僕は、学校は休みだったが、早く起き支度をして家を出た。 少しでもあの病院から早く帰してあげたいと思い10時に病院に着いた。 病院に着いて、会計窓口と書かれた場所に行き、カウンター越しに担当者に話し掛ける。 「あのすいません。今日退院する斉藤めぐみの家族の者ですが、会計出ていますか?」 すると担当者が請求書を探しているが、どうやら見当たらないみたいで、 「少々お待ち下さい。」と言って、電話を掛ける。 僕は不安が頭をよぎる 電話を切った担当者が僕に話し掛ける 「斉藤さんは、今日退院では無いみたいですよ」 僕の不安は的中した。 「そんな事無い筈ですが?」 すると担当者は 「ここでは詳しい事が分かりませんので、病棟で確認して貰えませんか?」 と病棟に行くように言われたので、病棟に向かった。 病棟入口のチャイムを鳴らすと、病棟事務員が出てきたので、 「すいません、斉藤の家族の者ですが、今日退院と聞いているのですが?」 「私は聞いていなかったので、病棟師長に聞いてみますね」 事務員はナースステーションにいる師長に声を掛けると、僕の所に近づいてくる。 「斉藤さんの息子さんですか?」 「はい」 「まだ病状が安定しないので、もう少し入院が必要になります。」 「母に合わせてもらえますか?」 「どうぞ」と言って母の所に案内される。 すると、前回案内された、隔離室に誘導される・ 「まだ母はこの部屋なんですか?」 「はい、まだ精神が安定していないので」 「先生は診察してくれたのでしょうか?僕が一昨日面会した時は普通でしたが」 「先生は診察していましたよ。」 すると師長は隔離室の鍵を開ける。 するとベッドで横になっている母の姿が目に入る。 薬を飲んでいるせいか、だるそうな感じがする。 「母さん」 「勇」と僕を呼び泣き始めた。 母が泣く姿は、父が亡くなった時以外、見た事が無い。 「母さん」僕は母になんて声を掛けていいか分からなかった。 すると師長が 「この様に、情緒不安定になるんです。」 僕は勇気を振り絞り 「こんな部屋にずーと拘束されたら、誰だって情緒不安定になると思いますよ」 母は泣き続ける 「母さん、先生は診察に来てくれたの?」 母さんは首を横に振る。 師長は 「院長は昨日から出張に出ていて、他の先生が診察していますよ」 「院長って、最初に診察してくれた先生ですか?」 「はい」 「一昨日、僕が母の面会が終わって帰ろうとしていた時に、ナースステーションで笑いながら看護師さんと話していましたけど、その日も診察しなかったんですね」 「その時の事は、私も分かりませんが、昨日も他の先生が診察していますよ」 「せめて、この部屋から出して下さい。」 「私の判断で出す事は出来ないんです。」 「判断出来る先生を呼んでくれませんか?」 師長の心の声が聞こえる (面倒くさいな) 何なんだこの病院は、僕は何が何だか分からなくなってきた。 すると師長が、ちょっと待ってて下さいね。と言い、少し離れた所で電話を掛ける。 小さい声で話しているため、何を言っているのか分からない。 僕は母さんに 「母さん大丈夫?」 「ごめんね。普通に話しても何も信じてくれないから、私も感情的になってしまって、つい怒ってしまうと、まだもう少しここで安静にしていましょうと言われる。でも本当の事だから嘘もつけなくて」 「父さんの事だね?僕には分かるけど、病院の人には分かってもらえないから、見なかった事にした方がいいよ。僕は分かっているから大丈夫だから」 「勇」と僕を呼び、頷いた。 すると先生がやって来た。 「斉藤さん」 母は 「はい」と答える。 「斉藤さんは、何でこの部屋に要るか分かりますか?」 「はい」 「何でですか?」 「妄想を見たからです。」 先生が言葉を無くした。多分先生は父を見たと言うのだろうと考えていたのだと感じる。 「そ そうですね。今は見えませんか?」 「はい」 僕は先生に話し掛ける 「先生、この部屋から出してもらえませんか?」 先生の心の声が聞こえた (院長は、まだ入院させていろと言われたけど、どうしようか) 「では、この部屋を出て、個室に入りましょう。これで普通に生活できたら退院しましょう」 多分、院長がいないと退院は出来そうも無いと思い、僕は 「では、僕がいる間に部屋を移動してくれませんか?」 師長が 「部屋の準備があるので時間が掛かりますけどいいですか?」 心の声では(今日は土曜日だから勤務者が少ないのに) 僕は「はい」と答えた。 すると師長が母と僕を部屋から病棟内にある面会室に案内され、僕と母は部屋の準備が出来るまでの間、面会室で待つ事となった。 「母さん、大丈夫?」 「ありがとうね、それにしても本当にこの病院は、どうかしているわ」 「本当だね」 「看護師もなってないし、医者も適当。ただ入院を長引かせる事しか考えていないみたい」 僕は頷く事しか出来なかった。 「誰か大人が来れば、退院出来るんだけど、友達に頼むのは嫌だから、もう少し入院して普通にしていれば退院できるかな」 と母は楽天的に語った。 すると師長が面会室に入ってくる 「部屋の準備が出来ましたよ」 僕と母は部屋に案内される。 母は部屋を見て、安心したようだった。 部屋の説明と入浴の説明が終わり、師長は部屋を出る。 「勇、今度来るとき携帯持って来てもらっていいかしら。」 「あっ 今日持ってきたよ」 「ありがとう。今度来るときは、充電器持って来て」 「分かった」 「でも、その頃には退院かな」と母は微笑んだ。 入院して初めて母の笑う姿を見て、僕は胸を撫で下ろした。 そして、しばらく母の所にいてから病院を後にした。 病院のバスに乗り、駅に着いた時は13:00になっていた。 駅に着くと明日香ちゃんと同じ制服の子が駅の所々で見かける。私立は土曜日も学校があるんだなと思い、ひそかに明日香ちゃんがいないか見渡す。 そんな都合よく見つかる訳では無く、僕は近くのハンバーガーショップに立ち寄る。 カウンターでハンバーガーを貰い、席に移動して、一人でハンバーガーを頬張る。 すると、ここでミラクルが起こった。明日香ちゃんが彩矢ちゃんとハンバーガーを持って僕の横の席に座ったのだ。 明日香ちゃんも席に座る間際に僕に気づく。 彩矢「明日香ちゃん、一昨日ありがとうね。」 明日香「うん。その後、大丈夫?」 彩矢「うん。あれから何にも言って来ない」 明日香「良かったね」 彩矢「ありがとう」 そんな会話が聞こえ、しばらくすると話が変わる。僕はハンバーガーを食べ終えたが、ジュースを、これでもかと思うほど遅く飲み耳を傾ける。 彩矢「明日香は気になる男子いるの?」 明日香「いないよ。前にも言ったけど男子に興味ないから」 すると彩矢がとんでもない事を口走る 「じゃあ 私と付き合わない?」 「えっ 私はそんな趣味ないから」 「私 本気なんだけどな。男女って関係なく無い?」 話しの方向が怪しくなってきた。明日香ちゃんの困る姿を初めて見て、素直に可愛いと思った。 (可愛くない、食べ終わったんなら早く店から出なよ)明日香ちゃんの言葉が聞こえた。 (まだ、ジュースが)と明日香ちゃんを見て笑った。 彩矢「ねえ それで真剣に考えてどう?」 明日香「いやいや、それは無理だよ。友達でいよう」 彩矢は残念そうに 彩矢「じゃあ まずは友達からだね」 明日香「今でも友達でしょ」 明日香ちゃんの顔は真っ赤になり、そんな姿も可愛いと思ってしまう。 (だから、早く店を出なさいよ) 僕は心の声が聞こえないように無視をした。 (聞こえているんでしょ!)と僕を見る。 あすると彩矢が 彩矢「さっきから横の男の子を見てるけど、もしかして明日香ちゃんのタイプ?」 明日香「そんな訳無いでしょ。あんな奴」 彩矢「あんな奴?もしかして知り合い?」 明日香「前のアルバイト先の客」 彩矢「あ~ 明日香ちゃんがウェイトレスしていた喫茶店の?」 明日香「うん」 話が僕の事に移ってしまったので、僕は急いでジュースを飲み干し、席を立とうとする。 彩矢「ちょっと待って」 と僕が席を離れるのを止める。 「なんですか?」 彩矢「もしかして明日香ちゃんの事好き?」 あまりにも唐突な質問だったが 「はい」 すると明日香ちゃんが(おい。話が混乱するから) (えっ?だって本当だもん。だって隠せないし、明日香ちゃんだって分かってるでしょ) 明日香ちゃんは、恥ずかしそうにしていると 彩矢「一昨日、居たでしょ?」 意外な質問に戸惑う 「えっ い いや」と口ごもる 彩矢「さすがに分かるよ。あのバス停で降りたのも私達とあなただけだったし」 「はい ごめんなさい。いました。何かただならぬ表情をした明日香ちゃんを見たので、ついて行ってしまいました。」 彩矢「アパートまで?」 あれ?この子は、どこまで知っているんだろう? 「はい」 彩矢「やっぱりね。何か一瞬、君の姿が見えたような気がしたんだよね。あの部屋で」 「えっ 僕はあの部屋にいってないよ」 彩矢「うん。あなたでは無く、あなたみたいな幽霊よ」 「えっ 僕は生きてるよ」 彩矢「あんた 何者?明日香ちゃんに何かしてない?」 「えっ 何にもしてないよ」 僕は明日香ちゃんに助けを求める (明日香ちゃん 助けて) (さっきから帰れっていったのに、帰らなかった罰じゃあないかしら) (そんな) 僕は、席を離れ逃げるように店を出た。
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