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明日香ちゃんに怒られ、僕はそのまま家の近くのコンビニへバイトに行った。
ここ数日、シフトが入っていたが、同じ店でバイトをしている圭に代わってもらっていた。理由は母の事だけではなく、この能力を持ってからオーナーに接するのが嫌になった事が大きな原因である。
オーナーは40代後半の女性である。背は低く痩せていて目が細く、ちょっと意地悪そうな顔立ちだ。
実際、僕と圭には意地が悪い。アルバイトは女子が多く、男子は僕達の他に学生バイトが2人いる。その2人は、有名私立K大学とW大学の1年生で、この2人に対するオーナーの態度は極めて優しい。
確かにこの2人は、頭がいいだけではなく、明るくて優しいので、オーナーが気にいるのは分かるが、あまりにも極端な態度に、憂鬱感が漂う。
普段の態度でも嫌だったのに、オーナーの心の声が聞こえるようになってから、更にソフトに入るのが遠ざかる。
(本当に鈍臭い子だね。)
(人手がいなくて雇っちゃったけど、もう辞めてくれくれないかしら)
等の声が聞こえてくる。
圭に一緒に辞めようと言ったが、圭は辞めるのを拒んだ。
本人は否定しているが、同じアルバイトでオーナーの娘の事が好きなんだと僕は思っている。
その子は僕達より1つ年上の菜摘(なつみ)ちゃんである。あのオーナーの子供とは思えないほど明るく優しい。残念なのは目が母に似てしまった事ぐらいで、少し膨よかな顔立ちで、少し天然の言動もあるが、その言動が場の空気を和ませる。
今日もバイトに行くと、菜摘さんがいた。
制服に着替え店に入る。
「おはようございます」
菜摘さんが
「ご苦労様、今日もよろしくね」
と笑顔で答える。
ちょうど商品の入れ替えを行なっていた圭が
「ユウ、じゃあ俺あがるから」
「うん。ご苦労さん」
すると、何処から湧いてきたのか、オーナーが僕達の横に来て
「ご苦労さんは、辞めなさい。仕事なんだから友達言葉はやめて、きちんとご苦労様と言いなさい。」
僕達二人は
「はい。すいませんでした。」と謝罪する。
するとレジの菜摘さんが「レジお願いします。」と言ったので、僕は逃げる様にレジに向かった。
レジが落ち着き、僕は揚げ物を作りにレジの奥に行くと、菜摘さんが声を掛けて来た。
「ごめんね。お母さんがうるさくて」
「いえ、僕達が悪いんですから。」と優等生ぶって返事をした。
いつもの僕は、商品の管理のやりながら、レジが混むと手伝い。商品の管理が落ち着くと揚げ物を」揚げたりして休む間も無く仕事をする。
ただ今日の僕は眠気が強く、レジからの声を聞き逃したり、揚げ物の時間を間違えたりで散々の一日であった。
そんな僕を見かねて菜摘さんが
「斉藤君どうしたの?今日おかしいわよ?」
「すいません。ちょっと寝不足で」
「勉強?」
「ちょっと母が体調を崩してまして」
「そうよね、お母さんまだ具合悪いの?シフトも変更していたもんね」
「ええ」
「斉藤君も大変ね」と笑顔で気をつかってくれた。
そんな会話がオーナーの耳に入り、オーナーが僕に話し掛ける。
「斉藤君、無理しないで休んでいいのよ。お母さんが治ったらシフト入れれば?」
そんな一見優しそうな言葉の裏は
(本当に出て来なくていいわ。永久に)
僕は
「みんなに迷惑掛けちゃうので、出れる時は頑張ります。」
「無理しないでね」と言って、オーナーは奥に歩いて行った。
すると菜摘さんが
「本当に無理しないでね」と言ってくれた。
心の声も
(お母さんいなくて大変だよね)
と本当に気を使ってくれていた。
そして、バイトの終了時間となり、僕と入れ替わりで勤務するK大学の学生の西森さんが着替え終えて店に入ってきた。
彼は高校2年の時から、このコンビニでバイトをしている。彼の心の声を聞くと菜摘さんに気があるようだった。圭には申し訳ないが、勝ち目の無い相手である。彼は心の声も清らかで、本当に頼れる先輩である。
そして西森さんに業務の引き継ぎを行い、コンビニを出た。そして歩いて15分程の場所にある家に着くと、急いで食事、お風呂を終えてベッドに横になり、睡眠をとる。
しかし、熟睡すると声が聞こえて眠れない。結局4回繰り返し耐えきれなくなっていった。
相談できる人は、マスターしかいないのは分かっているが、明日香ちゃんとの約束を破る訳にはいかない。今日、約束を破って明日香ちゃんに怒られたばかりなので、なおさら約束を破る訳にはいかなかった。
しかしこのままでは、僕も耐えきれないでおかしくなりそうだ。
僕は思い切って明日香ちゃんにLINEを送る事にした。
(明日香ちゃん、今日は約束破ってごめんなさい。どうしてもマスターに聞きたい事があって、この前の事を話してもいいですか?)
すると直ぐに既読になり
(どうしたの?)
(寝ようとすると欣也の声で「殺してやる」って声が聞こえて、深い睡眠がとれなくて)
すると明日香ちゃんから直電が入る。
僕はすぐに電話の会話ボタンを押す。
「大丈夫?」
明日香ちゃんは、いきなり大きな声で話し掛けてきた。
あまりに珍しい事に驚きながら
「うん。多分」
電話越しにドアを開けるような音が聞こえる。
「今、父に代わるから」と言って電話の声がマスターの声に変わる
「先日あった事は、さっき明日香から聞いた。今の体調はどうなっている?」
と聞かれ、今起こっている事を伝える。
すると
「じゃあ 今から調べるから、分かったら電話する。ちょっとだけ待っててくれ」
と言って電話は切れた。
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