第4章 母との別れ(明日香)

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明日香ちゃんに怒られ、僕はそのまま家の近くのコンビニへバイトに行った。 ここ数日、シフトが入っていたが、同じ店でバイトをしている圭に代わってもらっていた。理由は母の事だけではなく、この能力を持ってからオーナーに接するのが嫌になった事が大きな原因である。 オーナーは40代後半の女性である。背は低く痩せていて目が細く、ちょっと意地悪そうな顔立ちだ。 実際、僕と圭には意地が悪い。アルバイトは女子が多く、男子は僕達の他に学生バイトが2人いる。その2人は、有名私立K大学とW大学の1年生で、この2人に対するオーナーの態度は極めて優しい。 確かにこの2人は、頭がいいだけではなく、明るくて優しいので、オーナーが気にいるのは分かるが、あまりにも極端な態度に、憂鬱感が漂う。 普段の態度でも嫌だったのに、オーナーの心の声が聞こえるようになってから、更にソフトに入るのが遠ざかる。 (本当に鈍臭い子だね。) (人手がいなくて雇っちゃったけど、もう辞めてくれくれないかしら) 等の声が聞こえてくる。 圭に一緒に辞めようと言ったが、圭は辞めるのを拒んだ。 本人は否定しているが、同じアルバイトでオーナーの娘の事が好きなんだと僕は思っている。 その子は僕達より1つ年上の菜摘(なつみ)ちゃんである。あのオーナーの子供とは思えないほど明るく優しい。残念なのは目が母に似てしまった事ぐらいで、少し膨よかな顔立ちで、少し天然の言動もあるが、その言動が場の空気を和ませる。 今日もバイトに行くと、菜摘さんがいた。 制服に着替え店に入る。 「おはようございます」 菜摘さんが 「ご苦労様、今日もよろしくね」 と笑顔で答える。 ちょうど商品の入れ替えを行なっていた圭が 「ユウ、じゃあ俺あがるから」 「うん。ご苦労さん」 すると、何処から湧いてきたのか、オーナーが僕達の横に来て 「ご苦労さんは、辞めなさい。仕事なんだから友達言葉はやめて、きちんとご苦労様と言いなさい。」 僕達二人は 「はい。すいませんでした。」と謝罪する。 するとレジの菜摘さんが「レジお願いします。」と言ったので、僕は逃げる様にレジに向かった。 レジが落ち着き、僕は揚げ物を作りにレジの奥に行くと、菜摘さんが声を掛けて来た。 「ごめんね。お母さんがうるさくて」 「いえ、僕達が悪いんですから。」と優等生ぶって返事をした。 いつもの僕は、商品の管理のやりながら、レジが混むと手伝い。商品の管理が落ち着くと揚げ物を」揚げたりして休む間も無く仕事をする。 ただ今日の僕は眠気が強く、レジからの声を聞き逃したり、揚げ物の時間を間違えたりで散々の一日であった。 そんな僕を見かねて菜摘さんが 「斉藤君どうしたの?今日おかしいわよ?」 「すいません。ちょっと寝不足で」 「勉強?」 「ちょっと母が体調を崩してまして」 「そうよね、お母さんまだ具合悪いの?シフトも変更していたもんね」 「ええ」 「斉藤君も大変ね」と笑顔で気をつかってくれた。 そんな会話がオーナーの耳に入り、オーナーが僕に話し掛ける。 「斉藤君、無理しないで休んでいいのよ。お母さんが治ったらシフト入れれば?」 そんな一見優しそうな言葉の裏は (本当に出て来なくていいわ。永久に) 僕は 「みんなに迷惑掛けちゃうので、出れる時は頑張ります。」 「無理しないでね」と言って、オーナーは奥に歩いて行った。 すると菜摘さんが 「本当に無理しないでね」と言ってくれた。 心の声も (お母さんいなくて大変だよね) と本当に気を使ってくれていた。 そして、バイトの終了時間となり、僕と入れ替わりで勤務するK大学の学生の西森さんが着替え終えて店に入ってきた。 彼は高校2年の時から、このコンビニでバイトをしている。彼の心の声を聞くと菜摘さんに気があるようだった。圭には申し訳ないが、勝ち目の無い相手である。彼は心の声も清らかで、本当に頼れる先輩である。 そして西森さんに業務の引き継ぎを行い、コンビニを出た。そして歩いて15分程の場所にある家に着くと、急いで食事、お風呂を終えてベッドに横になり、睡眠をとる。 しかし、熟睡すると声が聞こえて眠れない。結局4回繰り返し耐えきれなくなっていった。 相談できる人は、マスターしかいないのは分かっているが、明日香ちゃんとの約束を破る訳にはいかない。今日、約束を破って明日香ちゃんに怒られたばかりなので、なおさら約束を破る訳にはいかなかった。 しかしこのままでは、僕も耐えきれないでおかしくなりそうだ。 僕は思い切って明日香ちゃんにLINEを送る事にした。 (明日香ちゃん、今日は約束破ってごめんなさい。どうしてもマスターに聞きたい事があって、この前の事を話してもいいですか?) すると直ぐに既読になり (どうしたの?) (寝ようとすると欣也の声で「殺してやる」って声が聞こえて、深い睡眠がとれなくて) すると明日香ちゃんから直電が入る。 僕はすぐに電話の会話ボタンを押す。 「大丈夫?」 明日香ちゃんは、いきなり大きな声で話し掛けてきた。 あまりに珍しい事に驚きながら 「うん。多分」 電話越しにドアを開けるような音が聞こえる。 「今、父に代わるから」と言って電話の声がマスターの声に変わる 「先日あった事は、さっき明日香から聞いた。今の体調はどうなっている?」 と聞かれ、今起こっている事を伝える。 すると 「じゃあ 今から調べるから、分かったら電話する。ちょっとだけ待っててくれ」 と言って電話は切れた。
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