第1章 二人の高校生

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白い雲は人の形をしていて、何となく喫茶店のマスターに似ている。まるで、マスターが幽霊になったような感じで、人間とは思えない風貌である。 その得体のしれない者は、子供を僕達の前に置くと消えていった。 子供の親も駆けつけ、僕達にお礼を言って子供を連れて公園に帰って行った。 あまりにも、非現実的な物を見たせいか、何が何だか分からない。 すると正真正銘のマスターが僕達の方に近づいてきた。 「明日香、大丈夫か?」マスターは明日香ちゃんに声を掛ける。 明日香「パパ?今の何?」 (パパ?今、パパって)僕は明日香ちゃんの言葉を疑った。 マスター「今のって?」 明日香「何でパパの姿した幽霊みたいな者が子供を助けたのか?」 明日香ちゃんはとぼけるマスターに具体的な事象を伝える、 マスターは僕にもドスが効いた声で話しかける 「おい、少年。お前も見たのか?」 僕は素直に「はい」 「こんな事ってあるのか?娘といい、お前までも」 そんな超常現象より、明日香ちゃんの言葉が気になった。 「あの?明日香ちゃんがマスターの事をパパって言っていたんですが・・・・・」 「あ~、俺の娘だ。他の客には言うなよ。そんな事より今の状況の方が気にならないのか?」 「え~そうですけど。僕にはどっちも大事な事なので」 下を向いて呟く様に返事をした。 「まあ、こんな所で話せないから、喫茶店にでも行くか?」 マスターは喫茶店の方に歩き出したので、僕と明日香ちゃんは後をついていった。 僕達は喫茶店の入口では無く、裏口に向かう。 開店時間直前なので、店の前に人が数名いるのが見える。 裏口に着くと、マスターが僕に話しかけてくる。 「店を開ける時間だから、悪いけど17時まで待てるか?」 特に用事も無いので頷く。 「そうか。悪いな。今日は17:00に店を閉めるから、また、ここに来てくれ」 「分かりました。客で入ってもいいですか?」 「いいけど、話しかけるなよ」 「一つならいいんですよね」 「勝手にしろ」 裏口にいた僕は、喫茶店の入口に移動した。 外は晴れているのに、何故か霧がかかっているように見える。その霧が光に反射して眩しさを感じる。 そんな事を感じながら喫茶店が開くのを待つ、15分程すぎて、やっと店が開店した。 店は一気に満員になる。土曜日に学校のある生徒、部活帰りの生徒、僕達の高校以外の生徒も多い、しかし皆、高校生である。 ここの喫茶店はアルバイトの女の子が目的だが、コーヒーも上手いと評判になっている。 一人一人サイフォンで入れるコーヒーが、美味しいと友達は言っている。 だけど、僕はコーヒーが苦手なので注文した事は無かった。 今日は一人なので、カウンターに案内される。 カウンター越にいるマスターに「ジンジャーエール下さい。」と注文する。 すると、どこからか声が聞こえる (たまにはコーヒーにしろよ) 僕は、その声の出所を探すが分からない。女性の声だったが、喫茶店には女性は明日香ちゃんしかいない。明日香ちゃんは、余計な事は発しないので訳が分からなかった。 (空耳か?)と思った時、ジンジャーエールが僕の前に置かれる。置いたのは明日香ちゃんだった。 そこで異常に気付く。明日香ちゃんの横に白い幽霊みたいな明日香ちゃんが見えた。そして白い明日香ちゃんが、「さっきは私が言ったのよ。たまにはコーヒー頼みなよってね。空耳では無いわよ」と微笑む。 (なんだ?) 明日香ちゃんは、ただジンジャーエールを置いただけなので、話していない。 (訳が分からない) 今度は男の声で「だから、後で話すと言っているだろう」間違えなくマスターの声である。 僕はマスターを見ると、マスターの横にも白いマスターがいて、僕の方をみている。 (あの白いマスターが話し掛けたのか)と感じる。 「だから後で話すから、混乱するな」と声が聞こえた。 すると明日香ちゃんが、店の奥の店員の控室だろう場所に、早足で歩いて行く。 「まあしょうがないか?」 またマスターの声が聞こえた。 「お前は気にならないのか?」 僕は何を言っているのか分からない。 「左横を向いてみな」 僕は左横を向くと、そこには白い僕がいて、僕に向かって笑顔を見せている。 僕はびっくりして「わあ」と大声を出してしまった。 実物のマスターが「静かにしろ!」と僕を睨みながら注意した。 (マスターが見ろと言ったのに)と思ったが、「すいません」と謝罪した。 たしかに横の存在が気になり落ち着かない。 僕は、明日香ちゃんと話もせず店を出て、さっきいた公園のベンチで時間を潰す事にした。 あの事故からの自分が起きた事を思いだす。 僕の考えている事が、伝わってしまう事は何となく分かった。 心の中で感じた事、思った事をマスターは、その都度答えてきたからである。 では、この横の白い僕は?幽霊?でも僕は、まだ生きてるし すると、白い僕は「僕は君だよ」 (えっ話せるの?) 「うん。でも実際は君が思っている事だけど」 (何で、僕は君って分かるの?僕は分からないのに?) 「実際は君の心では分かっているんだけど、今まで僕の事に気づかなかっただけだよ」 (こころ?) 「人には自分の思いを形に出来る能力があるんだけど、皆はその能力を使えない。でもその能力を使えない人が殆どなんだ」 (でも、僕とマスターと明日香ちゃんしか白い人が見えなかったけど) 「この3人以外は、能力を使えないんだよ。よく人を見ると体のまわりが白く見えるでしょ。能力を使えない人は、形にならないんだよ」 僕は、公園にいる親子を見る。確かに身体の周りを縁取るように白くなっている。 「僕も、君が生まれてからずーと、一緒なんだよ。君が赤ちゃんの時は、よく一緒に遊んだけど、年が重なる度に形にならなくなっちゃったんだ」 確かに、赤ちゃんの時は幽霊が見えるってきいた事があるのは、このことなのかと納得してしまう。 もう一度、公園の親子に目を戻す。 確かに大人は白い部分が小さく、子供の白い部分は大きい。 (でも何で、その能力が使える様になったのか、分からない) 「僕も何故か分からないけど、ただ君の子供を助けたいと思う気持ちが強く、僕が少し身体から離れかけた時、強い力で引っ張られるように完全に身体から離れたんだ。そしたらトラックが目の前にいて、子供を助けようと必至に彼女とトラックを止めようと頑張った」 (明日香ちゃんと) 「うん。明日香ちゃんの分身と」 確かに一瞬トラックが止まった様に見えたのはそのせいだったのかと思った。 何となくだけど、この力の意味は理解出来たような気がした。 (何で、マスターは僕が思っている事に反応出来たの?声を発していないのに) 「君が明日香ちゃんの心の声が聞こえたように、自分に対して発される心の声は聞こえるんじゃあないかな?僕も久々に身体の外に出たから良く分からない、特に君は今まで僕を出そうとしなかったから」 (君を出そうと?) 「うん。何かをしようと強く念ずる事が無かったから?」 (よく分からない) 「さっきの子供を助けた時の様にダメだと思っても、それでも助けたいと更に強い思いを発した事だよ。」 (それだったら、結構スポーツ選手なんか、この能力を持っているのでは?) 「君が観ていたスポーツでも、何度か能力が発揮されていた選手を見た事あるけど、その瞬間に能力が出て、直ぐに元に戻ってたよ。」 (僕は何でこのまま何だろう?) 「良く分からないけど、君には能力を使える素質があるのかも知れないね」 そんな話をしていると、明日香ちゃんが公園にやってきた。 「ちょっといい?」 「うん」 明日香ちゃんが目の前に来て、明日香ちゃんから話しかけてくれた。 僕は、この信じがたい状況に興奮した。 「私、喫茶店にいるとみんなの声が聞こえて、気持ち悪い。それに横にいる白い私を見ると」 「僕も訳が分からず、ここで僕の分身と話していたんだ。」 「えっ話せるの?分身と?」 「うん、ずーと身体の中にいて、今までの生活も共にしているから、何でも答えてくれるよ。」 僕は、今まで分身と話した事を明日香ちゃんに伝えた。 すると明日香ちゃんは 「確かにそうかもね。客が私に対して気持ち悪い事を想像している人が多くて、気持ち悪くなっちゃったから、言ってる事は正しいかも。それに、他の人からの気持ちは伝わってこないから」 僕はいつも無口で殆どしゃべらない明日香ちゃんと会話する事に幸せを感じてしまった。 すると、明日香ちゃんが僕を睨み 「私だって普通に話します。知らない人と話すのが苦手なだけ」 僕は自分の思いが伝わってしまう事を思いだす 「何も思わないで会話するって、難しいね。意識なく色んな事を思っちゃう。」 「私の心も感じるの?」 「さっき、喫茶店で明日香ちゃんが僕に、たまにはコーヒー頼めとか」 「そうか。いつも、あんたはジンジャーエールだからね」 明日香ちゃんが僕の事を分かってくれていた事が嬉しく 「分かってくれてたんだ」 と笑顔で話した。 「そんな人、いないからね。パパのコーヒーは美味しいって評判だから。コーヒー以外頼む人があまりいない」 「でも、その後、僕が思った事を明日香ちゃんが答えたよ?」 「えっ私が?」 すると明日香ちゃんの分身が 明日香「そういえば、「空耳か」と声が聞こえたかも。無意識に何か答えたのかな?」 明日香(分身)「私が分かってたから、伝えたのよ」 明日香「何でそんな勝手なことするの?」 明日香(分身)「ごめんなさい」 明日香ちゃんらしいと感じた。 明日香「何が私らしいの?」と睨まれる 「ごめんなさい」 いつしか明日香ちゃんのペースにはまる。 明日香「どうでもいいけど、もし、私があなたに何か思っても気にしないで無視して」 「分かった。僕の事も気にしないでね。気分悪くさせちゃう事が多いかも知れないから」 明日香「分かった」 明日香ちゃんが言ったあと、声が聞こえた (意外といい奴なのかも) 僕は、明日香ちゃんを見る。それに気づき、 「だから無視しろって、いったでしょ。それに変な意味じゃあないから」 と顔を赤くして弁解した。 すると、マスターの声がする。 17:00に裏口って言っただろう。
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