第1章 二人の高校生

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月曜日 僕はいつもの様に駅に向かう。途中で圭と合流する。 「おはよう」 「おはよう。土曜日、本当に一人で行ったの?」 「うん」 (本当に好きなんだな。がんばれ) 圭の心の中が聞こえた。 僕は心の底から嬉しかった。もし圭が僕の事を嫌っていたら、どうしようと考えていたからだ。小学校からの友達であり、僕は親友だと思っている圭が、僕の事を悪く考えていたら立ち直れないのが、自分でも分かっていた。 僕達は電車に乗り学校へ向かう。学校のある駅の二つ前の駅で壮太が乗って来た。 「おはよう。ユウは本当に土曜日行ったの?」 「うん」 (傷つかなければいいけど) 良かった。僕の事を嫌ってないみたいだった。 学校には、僕のように分身が人の姿になっている人はいないように見えた。 そういえば、マスターは分身を自在に身体の中に入れてたけど、どうやっているんだろう?と疑問を感じる。僕の分身は、あの時から外に出ている。 僕は、昼休み一人で外に出て、人けの少ない場所に移動する。 校庭の近くに部室があるプレハブの裏は、人がまず来る事が無い場所なので、そこに移動した。 そして分身に話しかける (マスターの様に身体の中に入る事って出来るの?) 「うん。出来るよ。身体に入る様に指示すれば、身体の中に入るよ」 (そうか、マスターが言ってたように悪い人に見つけられたら、変なことに巻き込まれちゃうかも知れないから、身体に入ってもらおうかな?) 「うん。そうだね。」 (もし身体に入って、また呼ぶ時はどうすればいいの?) 「身体から出るように指示すれば、出て来るから安心していいよ。僕が外に出ててもあまり意味が無いからね。僕が外に出ていないと、他人の分身の声が聞こえない事ぐらいだよ」 (明日香ちゃんと分身の会話は聞こえなくなるんだ) 「うん。」 (でも、僕の部屋の中では出してあげるね) 「うん」 僕は、分身に向かって心の中で指示する。 (じゃあ身体の中に入って) すると、分身が僕の中に吸い込まれるように入って来た。特に感覚はないのだが、不思議な感じであった。 僕は教室に戻った。 前から3列目の窓側の席に着き、外を眺める。 横のクラスの圭と壮太がやってきた。 圭「どこ行ってたの?」 「ちょっと 外を一周歩いてみた」 壮太「珍しい事するね?」 「外に出ただけだよ?」 二人が頷く。 圭「怖い先輩にあったら嫌だから、外には行かないって言ってなかったっけ?」 「確かに」 壮太「でも一人で外に出るなんて、ユウにとっては大きな進歩だよ」 「俺は引き籠りでは無いんだけど。」 3人が笑う。 すると真顔で圭が話始める。 圭「でも、この前、ここで一番喧嘩が強い先輩が何者かに殴られて、病院に入院したんだって言ってたよ」 壮太「あの3年のゴリラみたいな人だよね?中学の時に柔道で全国大会にも出た事があるって言ってたよ」 圭「何で高校でもやらなかったんだろう?」 「うちも確か柔道は、そんなに弱い高校ではないよね?」 すると横から心の声が聞こえた (膝をケガしたんだよ。1年の時に3年にやられて) 僕は声のした方を見ると、横の席の「金井 優奈」と目が合った。 彼女は激しく椅子を引き、立ち上がり教室を出て行った。 3人は、激しく椅子を引く音で驚き、教室を出るまで彼女を目で追った。 圭「あれっ 何だか金井さん怒ってなかった?」 壮太「そういえば、ゴリラ先輩の名字も金井だったような?」 ユウ「じゃあ、お兄さんだったのかな?」 何となく金井さんが怒った事を理解すると 圭「俺達、クラスに戻るよ。後は頼んだよ」 と逃げる様に壮太と圭は教室を出て行った。 出ていく時、二人とも同じ事を心で思っていた。 (ユウ、ごめん) 午後の授業が始まる5分前、金井さんが席に戻ってきた。 女性に話し掛けるなんて事自体ハードルが高いのに、金井さんと言えば身長が僕より高い175cm以上あり、筋肉も程よくついていて凛々しい体型なのだが、顔立ちが綺麗で男子にも人気がある。 バレーボール部に所属していて、1年生で既にレギュラーになったと聞いている。 そんな子に僕から話し掛けるなんて事出来る訳が無い。 席に座っている彼女を恐る恐る見ると、目が合う。そして彼女から僕に話し掛けてきた。 「さっきはごめんね。1年の時の兄を思い出しちゃって、つい感情的になっちゃた。」 「こっちこそごめんね。ゴリラみたいだなんて言っちゃって」 「それは本当だから。全然気にしてないよ」 「入院したっていう噂は本当なの?」 「うん。以前の兄を痛めつけた3人の先輩と街で出会って、相手は相当酔っていたみたいで、いきない兄を殴ってきたんだって」 「えっ 何で殴るの?3人で1人を?お兄さんが被害者だったんだよね?」 「うん。兄をケガさせて試合に出してくれなくなった事に対する逆恨みよ。 あれ?兄が先輩にやられた事知っていたの?」 僕は心の声を聞いた事を思いだして、誤魔化す。 「ううん。何となく話の流れが」 「そうだよね。多分、この事は当時の柔道部の人しか知らないから。その3人は、元々補欠だったのよ。なのに出れなかったのは兄のせいだと言っている。本当に汚いやつら」 彼女の白い部分が大きくなるのが分かった。相当恨みをもっているのだろう。 先生が入ってきて、午後の授業が始まる。 彼女の心の声が聞こえてきた (ありがとう。話したら何だか楽になったよ。)
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