第1章 二人の高校生

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AM5:00目覚ましの音が鳴り響く。 学区外の女子高に通う私は朝早く起きる。 リビングに行き、朝食を作り、そのまま朝食を済ませて、学校に行く準備をする。 準備が終わると、特急が止まる駅まで車で送ってもらうために父を起こすのが日課なのだが、今日は、私が起こす前にリビングに起きてきて、眠たそうな口調で 「明日香、おはよう」とだけ言い、リビングを通りすぎトイレに向かう。 そして、5:45に家を出る。 6:10の電車に乗り、学校のある駅までの1時間15分程、電車に乗る。 始発に近い駅なので、大体は座っていける。電車の中では、本を読んだり、勉強したりして通学時間を過ごす。周りのサラリーマンの殆どは寝ている人が多いのだが、どうも電車で寝る事が出来ない私は、本を読む等して過ごすのであった。 基本的には駅の近くから出る、スクールバスに乗るまで一人で行くのだが、今日は駅からスクールバスに並ぶための200mぐらいの距離で友達の彩矢(君島 彩矢)と会い、一緒にスクールバスに並んだ。 「明日香、おはよう」 「おはよう」と返事をする。 特に心の声は聞こえなかった。 私達はスクールバスの到着場所に並び、スクールバスが到着すると同時に中に入る。 二人掛けの椅子が左右に前から後ろまで並んでいる。 私達は真ん中より、少し後ろの席に座った。 時間が遅いと友達同士で座れず、一人で座っている生徒の横にバラバラに座らされる。 学年別では無いので、まったく知らない生徒と隣になる事も良くある事である。 私は基本的に一人で学校に行っているので、最寄の駅からスクールバスの乗り場までに知り合いと出会わなければ一人で席に着く事が多い。彩矢は寝坊して次のバスに乗る事が多いので、寝坊しない時は一緒に行く。 彩矢は、背は小さく体型は小太りで胸は大きい。髪の毛はショートで、目は大きく頬はぽっちゃりしていて、ぬいぐるみの熊のように可愛い。 底抜けに明るく、真面目で曲がった事が嫌いな女の子である。 明るい性格のせいか、男子にも女子にも人気がある。 何人か友達はいるが、この子には悪く思われたく無いと思う友達であった。 バスは学校まで20分程掛かる。 途中のカーブで中央側に座っていた彩矢の肩が私にぶつかった。 「ごめんね」 「いいよ」と笑顔で返す。 すると彩矢の心の声が聞こえた。 (明日香ちゃんって綺麗だな、彼氏いるのかな?) 彩矢の心の声が聞こえたが、その質問に返答できない。 彩矢の方が綺麗なんだけど、と私は思っている。見かけでは無く、本当に心が綺麗だと感じる。でも本人に言う事など出来ない。 私は彩矢に話し掛ける。 「私、バイト辞めたんだ」 「そうなの?親が経営している喫茶店だっけ?」 「経営なんて大袈裟なものでは無いけど。商店街の一角の小さな喫茶店だよ」 「明日香ちゃんのウエイトレス姿見たかったな」 「彩矢はオヤジか?」 「うん。おやじだよ」 と太ももを軽く撫でてくる。 私は彩矢の手を払い退けて、怒った顔をして 「ダメでしょ」 いつもは、こんな感じでふざけて終わる。ただ今日は違った。 彩矢の心の声が聞こえる (明日香って感じるとどんな声出すのかな?) (胸を触ったら怒るかな?) 彩矢の心の声がエスカレートしていく。 私は無視して、外を眺める。 (太もも柔らかったな) とその時、太ももを触られる感じがした。私は目線だけ自分の太ももを見るが触っていない。 (えっ 何?) (じゃあ 想像でいやらしい事しちゃおう) 彩矢の心の声が聞こえてきた。 (えっ ダメ) (明日香は、胸を触られたらどんな表情するのかな?) すると胸をもまれる感触が伝わってきた。 (あれ?何となく明日香の表情が変わったような?) まずいと思い、私は何事も無かったかのように外の景色を眺める。 (もしかして、私って念力があるのかな?じゃあ乳首の先を摘まんでみよう) えっ!! 乳首の先を摘ままれる感触が伝わってきた。これはまずい。私は必至に平常心を保ち、外を眺める。眼を開けていると表情が読まれる事を避け、目を閉じて寝たふりをした。 すると乳首を揉む力が強くなる。 服もブラジャーも付けているのに乳首の先だけを摘ままれている感覚が私を襲う。 このままではやばい。彩矢の心の声を止めないと しかし彩矢の想像は止まらない。乳首を手で捏ねるように回し始める。 もうだめ その時、スクールバスが学校に着いた。 「明日香ちゃん、どうしたの顔が赤いよ」 (あなたのせいでしょ)と心で思ったが、 「風邪かな?」ととぼけた そして、教室に入る。 クラスの子と話すと、思った通り嫌な心の声が聞こえる。 (明日香って、何か感じ悪い) 会話をすると心の声が聞こえてくる。 会話をする気が段々失せてくる。 彩矢の声が聞こえる 「明日香?大丈夫?」 「うん。大丈夫だよ」 「朝から調子悪いみたいだけど?保健室行く?」 「ううん。大丈夫だよ」 「本当に?」 彩矢は本当にやさしい。あのいやらしい想像さえ無ければ、いいのだが。 この能力が無ければ彩矢の事も素直に受け取れるんだけど、少しこの能力がある事がもどかしい。それにしても、クラスの子の心の声は分かっていたとはいえ、現に聞こえると思ったより辛い。 心の声は、学校の事や他人の事を話すと私に対する嫌な声は聞こえない、ただし、眠いとか疲れた等のあやふやな表現を口走ると、 「男と遊んでいるのではないか?」「変なバイトでもしているんじゃないの?」等の嫌な声が聞こえてくる。 心の声が出ないように、あやふやな表現を避ける様に心掛けた。 そして授業が終わると 「一緒に帰ろう」 と彩矢が近づいてきた。 「うん」 やっぱり彩矢が一番安心する。 昼休みも心の声で (なんか元気ないな?)や(大丈夫かな?)等の心配する声が彩矢から聞こえていた。信頼できるのは彩矢だけだと感じた。 そして私達は、帰りのスクールバスに乗った。 席に座ると 「明日香ちゃん具合悪そうだから、少し寝てれば?駅に着いたら起こしてあげるから」 彩矢のやさしい言葉に甘えたいが、ここで寝ると朝のように、いやらしい想像をされるのが怖かった。 彩矢は彼氏もいるし、同性愛を好む訳では無いのは分かっている。ただ、基本的にスケベなのは分かっていた。 体育の着替えの時も、たまに胸を触ってきたりするのは、日常茶飯事なのだ。 「ありがとう。でも大丈夫だよ。そういえば彼氏とは上手くいってるの?」 「明日香が彼氏の事、聞くなんて珍しいね。もしかして好きな人でも出来たの?」 ただ、変な事を想像しないように適当に話した事を必要に聞いてきた。 「そんな訳ないよ。私、男性に興味ないから」 「とか言って、本当はいるんでしょ?」 「いないよ。」 「そうなの?明日香は綺麗だから男が放っておかないでしょ?」 「そんな事ないよ」 「でも良かった、今日の明日香は1日おかしかったから、元に戻ったみたいだね」 と笑顔で話し掛けてきた・ 「ごめんね。心配掛けちゃって」 「ううん。でも、何かあったら相談してね。力になるから」 彩矢の心の声も聞こえた (本当だよ) 彩矢のやさしさを感じた。 スクールバスが駅の近くに停車する。 彩矢とは帰る方向が逆なので、改札口で別れた。 今まで思った事を口にしていた会話から、言葉を選ぶ会話のむずかしさを覚えた一日であった。 電車に乗り、席が空いていたので座る。 次の駅でサラリーマンの上司と部下が目の前に立つ、その会話を聞いていると、私が今日行った言葉を選んでいる会話が聞こえる。 部下だろう人が上司に対して、嫌な気分にならぬ様、言葉を選び会話をしている。上司も多分、煽てられている事が分かっているのだろうけど、気持ちのいい気分になって、会話をしている。 以前の私なら、何故こんなに上司を持ち上げて話すのだろうと、不快な思いをしていたのだが、今日の私は、相手の気持ちを先読みして話す、部下の言葉の凄さを感じた。 自分の事しか考えた事が無かった私が、他人の事を意識する様に変わった日になった。 それにしても、彩矢の心が私の中に入ってくる事を知った私は、アルバイトを辞めて良かったと、つくづく感じたのであった。
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