第2章 母への怨念(ユウ)

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僕は、こんな恐ろしい顔をしている父を知らない。 それほど父の顔は憎しみを露わにした表情であった。 僕は父の顔を見て、母に何か起きているのではないか嫌な予感を感じる。 僕は靴を脱ぎ捨て、母の所に向かいながら、大声で母を呼ぶ 「母さん!」 電気の点灯している、リビングに行ったが、母は居ない。 母の部屋、僕の部屋、トイレ、お風呂と探したが、母は居ない。 最後に父が使っていた、書斎のドアを開けると、横たわっている母の姿が目に入った。 「母さん!」 僕は横たわっている母に呼び掛ける。 ただし、反応はない。 ただ脈はあったので、ポケットから携帯電話を取り出す。 救急隊を呼ぼうと119を押そうと指を動かす。 11まで押し、最後の9を押そうとするが9を押せない。 9の所を押そうとする指を父が掴んで離さない。 すると充電はあったはずの携帯の電源が切れた。 僕は母を抱き上げ、外に出ようとするが、父が僕の足を掴んで動けない。 僕は心で叫ぶ (誰か助けてくれ) すると、玄関から物音が聞こえ、僕は大声で叫んだ。 「誰かいるの、助けて」 すると足音が近づいてきて、1人の女の子が入って来た。 明日香ちゃんだ。 明日香ちゃんは心で下の車にいるマスターに向かって心を伝える (救急車を呼んで!急いで!) 車にいたマスターは救急車の要請をしてから、家に入って来た。 マスターの分身が父を抑える。 「おい、今のうちに「めぐみ」を外に連れ出せ」 僕は、母を背中に乗せ、外に向かって走る。 マスターが父を抑えていてくれたおかげで、父は追って来なかった。 外で明日香ちゃんと救急車が来るのを待っていると、サイレンの音がなり、家の所で救急車が止まった。 救急隊が車から降りてきて 「斉藤さんですか?」 「はい」 すると救急車の後方ドアが開き、ストレッチャーが運ばれてきた。 すると母が目を開け、発狂したかのように大声を出す。 「助けて、殺される。」 そして恐怖に怯えているのが伝わってくる。 救急隊の腕を掴み 「助けて、殺される」と何度も繰り返し、救急隊の腕を強く掴む。 その状況をみて、他の救急隊が僕に話し掛けてくる。 「お母さんはどこか病気がありますか?」 僕は、その意味が分からず 「特に、病気はしていないと思いますが、母さんは看護師なので、もしかしたら自分の病院で診てもらっていたのかも知れません。」 僕は、母の務めている病院を救急隊に伝えた。 「特に外傷も無いし、どのような状況でしたか?」 僕は、どう説明したらいいのか分からず 「家に電気が点いていたので、母が帰っているのだろうと家に入ったけど、母さんの姿が見えなかったので探したら、父の書斎で倒れている母を見つけて、慌てて電話しました。」 「お父さんは?」 「僕が小学校3年生の時に交通事故で亡くなっています。」 「そうですか。お母さんは、いつもパニックを起こす事があるの?」 「いいえ。初めてです。」 「特に症状がないので、精神科病院を探しますね」 「精神科ですか?」 「はい。今はパニックを起こしているみたいで、あの状況では精神科で診てもらった方がいいと思いますよ。」 僕は複雑な気持ちで 「はい」と頷いた。 僕は救急隊に掴まっている母の元へ、足を運び、母へ話し掛ける 「母さん」 母は、パニックをおこした状態で 「勇、父さんが私を殺そうとしてきたの」 「父さんが?」 「本当よ。本当に父さんが私を」と言うと泣き崩れてしまう。 母の心の声が聞こえてきた (あれは事故よ、私は悪く無いわ) 僕は、その心の声を聞いて、7年前の交通事故の事を思いだす。 小学校3年生だった僕は、学校で普通に授業を受けていた時に先生から両親が交通事故で病院に運ばれた事を知った。 先生が病院まで送ってくれて、病院の廊下で泣いている母の姿を見た事だけしか交通事故の記憶は無い。 中学の時も事故の事を聞こうとした時期もあったが、母に辛い事を思いださせては可愛そうだと思い、聞くことは無かった。 救急隊から診察してくれる病院が見つかったと言われ、付き添う様に言われた。 僕は横にいる明日香ちゃんに家の鍵を渡し、 「ごめんね、明日香ちゃん、マスターが出てきたら、鍵を閉めてもらっていい?」 明日香ちゃんも、状況が分からず困惑した表情で鍵を受け取ってくれた。 そして僕は、救急車に乗り込んだ。 救急車は、家からかなり遠い市外の病院に向かう事になった。 僕は、明日香ちゃんにLINEで病院名を教えた。 そんな時でも、明日香ちゃんへの初LINEがこんな内容だった事を悔やんだ。 そして救急車は市街地を離れ、山の中腹にある大橋病院と書かれた病院に入っていった。、 そして、母は車椅子に乗り診察室に連れて行かれる。 診察室には、看護師しかおらずPHSで医師を呼び出す 「大橋先生、急患が来ました。」 そして2,3分後に小柄で太った男性医師が入って来た。 「どうしましたか?」と先生が母に向かって話し始める。 母は、興奮した状態で 「主人が私を殺そうとしてきたんです。」 「旦那さんが?」 「はい。7年前に亡くなった主人が私を殺そうとしてきたんです。」 「そうですか。どうやって殺そうとしてきたんですか?」 「はい。私の首を掴んで、その後、心臓を掴んできました」 「首を絞めた跡も、心臓を掴めるような傷も残っていませんね?」 「でも、本当に心臓を掴んで来たんです。」 「では、少し落ち着いて話ましょう。では、落ち着く薬を注射しましょう。」 すると、母の後ろから父の姿が浮かびあがってきた。 父は先生の後ろに移動する。 先生は、注射を打とうとしたときに、母が父の姿を見たのだろう、注射を拒み 「やめて、殺さないで」と発狂した。 横にいた看護師が母を抑える。そこへ先生が母に注射をした。 しばらく、看護師が母を抑えていたが、段々と力が抜けて、ついに母は寝てしまった。 母をストレッチャーに移動する。 そして、先生が僕に話し始めた 「お母さんは疲れているみたいだから、2,3日、病院に入院して静養しましょう。」 僕は、父の姿が何故母が見えたのか分からないが、原因は分かっているのに、それを先生に伝える事は出来なかった。 僕は 「はい」と先生の言葉に従った。 すると、マスターと明日香ちゃんが病院に入って来た。 救急隊に案内され、診察室に入る。 マスター「患者と患者の息子さんと知り合いの者です。」 先生は、今までの経過を説明した。 そして、先生が僕達3人に話し始める。 「患者は、妄想をみているのだと思います。ストレスによるものか、統合失調症と呼ばれる病気か、今後の状態を診て診察を行っていきます。病棟は急性期の病棟に入院する事になります。」 先生は僕を見て、 「それでいいですね?」と確認をした。 その時、大橋先生から信じられないような心の声が聞こえてきた。 (お客さんが一人増えた。今月、入院が少なくて困ってたんだよ。ありがとう) そして、事務職員が来て、入院に必要な書類を持って来て、全て記入して母は入院となった。 ストレッチャーに乗った母の後を追う様に、病棟に向かった。 母は、隔離室と呼ばれている病室に入って行き、そこにあるベッドに寝かされた。 病室に中にはトイレとベッドしか無く、監視カメラが病室の隅々まで見えるように設置してある。まるで刑務所のような印象を受けた。 先生は既に、この場所にいなかったので、看護師に尋ねる 「ここで入院するんですか?」 僕は、こんな場所だとは思っておらず、母がここに入院する事に抵抗を感じた。 すると看護師は 「状態が良くなれば、直ぐにこの病室から出れますよ」 と話す。 納得は出来なかったが、2,3日の入院であればと思い、承諾した。 母は寝ていたが、横の父が気になる。 するとマスターの心の声が聞こえる (大丈夫だ。多分、めぐみは明日、旦那を見えないよ) (どういうことですか?) (まあ 後で話すよ) マスターの言葉もあり、寝ている母を後にして、病院を出た。 そして、マスターの車で家まで送ってもらう事になる。 「マスター、明日香ちゃん、助けてくれてありがとうございます。」 マスター「救急車が来て、めぐみを乗せて動き出したら、消えてしまったから「めぐみ」に憑りついていたのだと理解した。」 「えっどういうことですか?」 「何故かは俺も分からないが、相当な怨みを持っている様に感じた。」 「僕もあんな父の表情を見たのは初めてです。」 「今まで見えなかったのか?」 「はい。マスターがいったように、母に憑いていたのなら理解できます。この能力を持ってから、母に会うのは初めてだったから」 マスター「じゃあ確定だな。」 「ところで、何で、僕の家にマスター達は居たんですか?」 「お前と喫茶店で会った時に嫌な予感がした。そして、めぐみに黒い影があったのも知っていたから、余計気になった。」 「母さんに黒い影?」
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