第1章 二人の高校生

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第1章 二人の高校生

斉藤 勇(サイトウ イサム)。これが僕の名前、でも友達は僕の事をユウと呼んでいる。 高校1年の6月、高校で友達になった「朝田 壮太(アサダ ソウタ)」と小学校からの友達である「紺野 圭(コンノ ケイ)」の3人は、授業が終わり、ある目的のため教室で時間を潰している。 僕達の高校は、特に偏差値も高い訳でもなく、低い訳でもない、いわゆる平均的な共学の高校である。大学の進学率も高く無いので、数人はレベルの高い大学に行くが、殆どは二流、三流の大学や専門学校、就職となる。 僕は特技も無く、運動神経も鈍い。そして特にやりたい事も無いため、帰宅部に所属する。類は友を呼ぶのか、この二人も同じ様に学校生活を送っていた。 今日は水曜日、教室の時計は16時30分を指し、僕たちはある目的のため学校を出る。 高校から近くの駅までは20分程で着くのだが、今日の僕達は通常の駅より一つ遠い駅を目指す。時間で言えば歩いて10分程遠い駅である。その駅に行く途中に寂れた商店街があり、その商店街の喫茶店「KING」を僕達は目指すのであった。 その喫茶店はカウンターに椅子が4個、窓際に4人掛けのテーブルが2個、カウンターと窓際のテーブルの間に4人掛けテーブルが2個あり、計20人が入れる小さな喫茶店である。 そこで働くアルバイトの女の子が僕達3人の目的であっだ。その女の子は水曜日17時、土曜日は15時からアルバイトに入る。 その時間を見計らって店に向かっていたのだ、あまり早く行っても彼女には会えない。 それには理由がある。この喫茶店のマスターは、異常に怖い。 体格もがっちりしているだけでなく、店内なのに黒いサングラスを掛けている。髪の毛はオールバック、1980年代に流行った「ツッパリ」の風貌だ。声もドスがきいていて、女の子がいなければ一人で入れない。 早く行っても会えない理由は、この喫茶店のルールにある。 喫茶店のメニューは飲み物しか無く、飲み物が出てから30分以上、居てはいけないルールがある。30分を過ぎると席料として1000円が追加される。それも30分ではなく10分の延長なのだ。 そのかわり店の女の子のスキルは高い。 月曜日と木曜日のアルバイトは、目が大きく二重。背は普通で痩せているが胸は大きい。笑顔はアイドル並みに可愛い「瞳ちゃん」。 火曜日と金曜日の子は、背が低く髪はロング、胸は小さいが性格は明るい。いわゆる妹キャラである「琴ちゃん」。 僕達の目的の子は水曜日と土曜日に勤務している。 ロングヘアーで切れ長の目をしている。肌は白く背は高い。胸はあまり大きく無く、笑顔は殆ど見せない。 ただ、本当に綺麗で、モデルの様な女の子の「明日香ちゃん」。 僕達は17時に店の前に着き、窓から店内を覗くと窓際のテーブルが空いているのを確認して、店に入る。 店に入ると名札に「明日香」と書かれた美少女が僕達の前に来て、ついて来いと言わんばかりに窓際のテーブルにメニューを置いた。 僕達は彼女の後ろを歩き、メニューが置かれたテーブルの席に座る。 僕以外はコーヒーを頼み、僕はジンジャーエールを注文する。 ここの店のいいところは、アルバイトの女の子に声を掛けてもいい事になっている。ただし、恋愛絡み、趣味等の個人に対する情報を聞くのは禁止である。 話しかける回数も一人一回だけであり、高校生専用のキャバクラみたいなシステムである。 店の女の子の時給も破格なため応募も多いのだが、彼氏が出来た段階で解雇となるし、客数が減っても解雇となる。 月に1回まで休む事が許されるが、それ以上休んでも解雇される。休んだ時はヘルプのアルバイトが来て、その子の反応が今のアルバイトの子より良ければ入れ替えとなる。 アルバイトを行う子にとっても、厳しい条件なのだ。 そんな条件もあり、ここで働く女の子は愛想がいい子が多いのだが、僕達の明日香ちゃんは無愛想だ。話しかけても一言しか返事がない。何でこの店でアルバイトしているのか不思議だ。余程給与がいいのだろうと思わざるを得ない。 席に着いた僕達は、話す順番を決める。 圭「今日はユウから話しかけなよ。」 特に照れる訳でなく、僕は答える 「わかった。何を話そうかな?」 壮太「突拍子も無い事聞こうか?」 勇「どんな?」 壮太「UMAを信じるか?何てのはどう?」 圭「明日香ちゃんが、どんな反応するか面白そうだね」 勇「じゃあ、俺は幽霊信じるか?聞いてみるよ」 圭「じゃあ、俺はUFOにしようかな?」 壮太「俺は予言って信じるか聞いてみようかな?」 勇「3回も続けて聞いたら怒るかもよ」 すると僕達のテーブルに明日香ちゃんが飲み物を運んで来る。 コーヒーを置き、僕のジンジャーエールを置いた時、僕は話し掛けた。 「明日香さん、幽霊って信じる?」 彼女は僕を睨み一言 「信じない」 僕は苦笑いしながら「そうだよね」と罰が悪そうな表情をした。 そして圭が次に話しかける。 「今日は何かいい事があったの?嬉しそうだね?」 あれっ?UFOでは? 明日香ちゃんは「別に」と一言 そして壮太が 「今月はいつ休むの?」と聞く 「休まない」とだけ一言いい、僕達の会話はあっという間に終わった。 そして30分経ち店を出た。 圭「それにしても、本当に早い会話だよな」 壮太「本当だよな。他の子は結構しゃべってくれるって言っていたよ」 僕は照れながら「でも、彼女を近くで見られるだけで、結構満足かも」 壮太「ユウは奥手だもんな」 「うん。実際、クラスの子を同じ様に見ていたら、変態って思われるだろ?でも、あそこなら問題ないじゃん。」 圭「ユウの明日香ちゃんを見る目は異常だしな。確かにあんな風に凝視されたら、普通の子なら引くよ」 壮太「確かに」と頷く。 壮太「土曜日は行かないよな?学校休みだし」 圭「俺もバイトあるから、行けない」 「今週の土曜日は、バイトが無いから行こうかな?」と言うと、 壮太「さすが、ユウ。明日香ちゃん命だね」 勇「客が少ないと解雇されちゃうから」 圭「やさしいね。本当に惚れたんだろ」 勇「うん。惚れてる」 すると圭が僕の肩を掴み、揺らしながら 壮太「ユウ、現実を見ろよ。周りに恋愛が出来る子は、いっぱいいるだろ。共学だし」 圭「ユウは、話し掛けれないよな。小学校から今まで、女の子に幽霊の事について話す事なんて出来なかったもんな」 喫茶店で、はめられた事を思い出す。 勇「そういえば、俺だけ約束とおり幽霊の話したのに」と怒った表情で二人に迫る。 壮太「明日香ちゃんの表情みたら、あれ以上言えないでしょ?」 勇「うっ・・・でも絶対、変人って思われたよ」 圭「変人だからいいじゃん」 そんな会話をしながら駅に着き、電車に乗った. そして土曜日 明日香ちゃんは、15時からアルバイトに来る。 学校は休みで、今日は僕一人で喫茶店に向かった。 何故ここまで彼女の事が気になるのか、自分でされ分からない。今までアイドルでさえ、こんなに熱中した事等なかった。 恋とは明らかに違う気がする。どう表現したらいいのか分からないが、彼女を見ないと不安な気持ちになるのだ。 それにしても休みにまで行くのはどうかと電車の中で自問自答する。 喫茶店のある駅で降り、寂れた商店街に向かって歩き出した。以前はこの商店街がある所に電車が通る予定だったと聞いている。電車の計画が出た時、商店街が反対をして駅が別の場所に作られたそうである。 結局、反対していた商店街の店主は、殆ど駅の方に店を構えたのである。 残ったのは、この喫茶店と跡目がいない服屋、食堂、雑貨屋とパチンコ屋である。新たに商店街に入ってくる店は保険屋や介護業界の事務所等であった。 商店街に着いたが、まだ彼女が勤務するまで時間があるので、近くの公園で待つ事にした。 土曜日で会社も休みが多いのだろう、子供と一緒に親子で遊びにきている人が3組程いる。そんなに大きな公園ではないが、ブランコ等の子供用の遊具が少しあるので、子供が居る家庭なら、ちょっと散歩程度に遊ぶには、もってこいの公園だ。 そんな親子の姿を眺めながら、父親が生きていた頃を思い出す。父は小学校3年の時に亡くなり、現在は母親と二人で生活している。母は看護師で夜勤もあるので、一人の時間が多い。母親が休みでも仕事が忙しいせいか、家から出る事は少ない。 父親が生きていた時は、父親が僕と遊んでくれたり、母親と3人で出かける事が多かった。父親が亡くなって、父親の存在の大きさに気づく。 そんな感傷に浸っていると、母親と子供2人で来ている親子に目がいった。 幼稚園にまだ通っていない小さな女の子と小学校1,2年ぐらいの男の子と公園に来ていて、男の子は一人でサッカーボールをリフティングして遊んでいる。サッカー教室にでも通い始めたばかりなのか、リフティングは1,2回で下に落ちる。母親がブランコの方から男のを呼ぶ。「健ちゃん、ブランコ空いたわよ」2つあるブランコが空き、女の子は既にブランコに座っている。男の子は、その声を聞き、母親の方を見る。 リフティングの途中だったが目を逸らした事で、ボールが膝に当たり、勢いよく転がっていき、男の子はボールを追いかける。 ボールは公園を出て道路の方へ転がっていく。 道路は結構、車の通りが多い道路なので、危険を感じ近くにいた僕は、子供を追った。 「危ない!」 ボールは道路に転がっていき、男の子は躊躇なくボールを追う、僕は公園を出ると男の子は既に道路へ足を踏み出していた。 そこへ走っていた4tトラックが男の子を見て急ブレーキを踏む。トラックと子供の距離は10mも無い、ブレーキ音が響く。 「あぶない!」 大きな声が横からする。 声の主はなんと明日香ちゃんだった。 僕と明日香ちゃんが男の子に戻るよう叫ぶが、車は止まれない。 明日香ちゃんは足がもつれ転んでしまう、僕もその足に引っ掛かり転ぶ。僕達は、それでも男の子から目を離さなかった。 (駄目だ)と思った時である。一瞬トラックが止まった様に見え、僕達の上から白い雲みたいなものが子供に向かって飛んでいく。そして、その白い雲みたいなものが子供を抱えて僕達の前まで子供を運んできた。 本当に一瞬の出来事であった。
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