第4章 母との別れ(明日香)

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第4章 母との別れ(明日香)

ハンバーガーショップで逃げ出す様に店を出た僕は、そのまま電車に駆け込んだ。帰りの電車の中で、彩矢ちゃんが僕の姿を見た事よりも母の事について考えていた。 母の退院が延期した事を、当たり前の様に心の声で言っていた医者や看護師の事が気になってしょうがない。 多分このままだと退院は出来ない。未成年の僕が言っても聞いてくれる雰囲気ではない事は明白であった。 母が見た事を証明する事は無理だろうし、同僚に言う事も母は拒んでいる。 マスターにお願いしたらと考えたが母とは何か言えない事情があるように思えた。 家までの長い電車の中で、いつしか僕は寝てしまった。 20分ぐらい寝ていた時に 「殺してやる」と僕の耳元で声がしたのだ。 僕は飛び起き、声がした右を見た。 すると、家族連れの父親が僕の横に子供と話をしている。 とても、あのような事を言うとは考えられない。 僕は夢でもみたのかと思い、気にする事無く、そのまま電車に揺られて家のある駅で降りた。 どこかで聞いた事がある声だったのだが、思い出せず途中にコンビニに行き、夕食を買って家に帰った。 母の入院が延びた事で、家の用事も行わなければならない。 たった数日で部屋は汚れているため、掃除を行う。 居間、廊下、階段と掃除を行う。父の書斎も、あの事件以来入っていなかったが、書斎に入り掃除をした。特に意識をした訳では無く、押入れを開けた時、1冊のノートが落ちてきた。 あまりにも不自然である。まるで何かを僕に見せようとしている様であった。 僕はそのノートを開いた。そしてその中身に驚愕した。 父達が交通事故にあう前日の日記というか、メモであった。 めぐみは、誰かに狙われている。多分犯人は鈴だ。 あいつは、変な能力を持っている。 あいつのお見舞いに行ってからめぐみの具合が悪くなっている。 病気が無いのに、胸が苦しくなったり、嘔吐したり、このままではめぐみは死んでしまう。 明日、めぐみを連れて退院した神城 鈴の所に行こうと思う。 もし、明日何かあったら、神城 鈴が犯人なので、警察に言って下さい。 神城?変な能力? 僕は神城 鈴は明日香ちゃんの母親だと、すぐに分かった。 どういう事なんだろう? 僕は掃除を止めてリビングのソファーに座り考えた。 明日香ちゃんにお母さんが、僕の母親を殺そうとしていた? 僕は考えた末、マスターの所に電話を掛けた。 マスターが電話にでたので話し掛ける。 「マスターいきなり電話してすいません」 「どうした?」 僕は父の書斎にあった父のメモの内容を、そのまま伝えた。 するとマスターは 「そうか、剛君は、そう思っていたのか」 マスターは僕の父の事を剛君と呼んでいたので、面識があった事が分かった。 「どういう事なんでしょうか?」 「明日、家に来れるか?」 「はい、バイトが昼にあるので、その前なら大丈夫です。」 「そうか、じゃあそれでいいよ。その時に話すよ」 「分かりました」 僕は電話を切った後で、明日香ちゃんはいるのか聞くのを忘れたことを後悔したのであった。 そして翌日 何度も、昨夜は起きてしまう。 寝ると「殺してやる」という声が聞こえてくるのだ。 それも、睡眠が深くなると聞こえてくる。 何度も繰り返し、結局、朝まで熟睡が出来なかった。 ただ、その声の主は、明日香ちゃんを助ける時に身体に入った「欣也」の声だと確信した。 朝食を食べながら、後でマスターに聞いてみようと考えた。 明日香ちゃんに会える喜びもあり、僕は家を出る。 そして、1時間掛けて明日香ちゃんの家についた。 玄関のチャイムを鳴らすと、しばらくしてマスターが玄関の鍵を開ける。 奥から明日香ちゃんの声が聞こえる。 「ちょっと待って、家にして、私が喫茶店使うから」 マスターは明日香ちゃんの言葉を聞き、僕を家に招き入れた。 「そこのソファーに座っててくれ、今、コーヒー入れてやる」 僕はマスターが言うとおりソファーに座った。 心の中では明日香ちゃんの家に入った喜びで、部屋を見回す。 すると明日香ちゃんが急ぎ足でやってきて心の声で会話をしてきた。 (この前の事は父には内緒。それと彩矢がこっちに向かっているので、私がいいと言うまで絶対に家から出ないで) 僕はバイトがと言ったが、まったく聞く耳を持たず、家を出て行った。 マスターの声が聞こえる 「どうした?何かあったのか?」 「いえ、何でもありません」 そして、マスターはコーヒーをテーブルに置いて、対面上にあるソファーに座り、話し始めた。 「俺の妻は、めぐみの勤務している病院に入院して手術を受けたんだ」 「マスターが能力を持った時の事ですよね?」 「あ~そうだ。めぐみは前にも話したが妻と同級生で、妻の能力の事を知っていた唯一の友達だった。手術が終わり、傷が治るまで入院していた時の事だが、めぐみが泣いて妻の所にやってきた。 話の内容は、 以前、患者の子供が亡くなって親が医療ミスではないかと、めぐみに詰め寄ったらしい。勿論、医療ミスでは無かったのだけど、あいつも表現の仕方が悪く、患者の親を怒らせてしまったらしい。 その後は、担当者が変わりめぐみは、その件に関わらなかったらしいんだが、妻の所に泣いてきた日、救急車で、その子供の親が飛び降り自殺を図り、意識が無いまま病院に運ばれてきた。 その日は救急患者の担当だっためぐみは、何も知らず救急患者の対応をしに行って、救急車から降りてきた患者が、その子供の親だと分かった。 もう助からない状態で意識は無かったのだが、めぐみの声掛けに患者の眼が開き、 「お前が洋一を殺したのよ」とめぐみに向かって話して直ぐに亡くなった。 気が動転しためぐみは、勤務後、妻の所に来て泣いていた。 その時は既に俺も能力があったんだが、めぐみに異変は感じられなかった。 ただ、翌日の退院日に、会計を済まし病院を出る時、めぐみが少し遠い所から手を振ってきた時に、めぐみの後ろに黒い影が見えた。 退院して、めぐみの黒い影の事は妻も確認していたので、めぐみに電話で一度来るように言っていた。」 マスターの話しを聞き1つ疑問を抱く 「母さんが行ったら、どうにか出来たんでしょうか?」 「うん。俺には無いが、妻には黒い影を祓う力があった。だから早く来るように言ったんだ。ようやく来る事のなった日に事故が起こった。」 僕は、あの手紙との内容のズレが気になり、聞いてみた。 「あの手紙と少し内容が違う気がするんですけど、あの手紙だと父が無理やり言いに行くような内容だったと思いますが?」 「俺も昨日聞いた時に違和感があった。後はめぐみに聞かないと分からない。剛君が亡くなって、妻は電話したが、一度も電話に出てくれなかったらしい。何が起こっているのか妻にも分からなかった。直接的な原因では無いが剛君が死んだ事は、自分のせいだと思ったのかも知れない。 剛君の葬式の時には、今まで見た事が無い黒い影がめぐみを包んでいた。 妻も葬式に行き、めぐみの事を見たが葬儀中に、こんな事言えないと思って、葬式の時はそのまま帰った。妻も剛君が亡くなった事は自分のせいだと思っていた。」 「奥さんもですか?」 「あ~ 私が呼ばないで、自分でめぐみの所に行ければ、剛君が死ななくても良かったのにと泣いていた。 その後も病院で何度か見かけたが、黒い影は小さくなっていた。 妻がその事を伝えると、決まって、もういいのよ。と受け流されていた。」 僕は質問する 「実際はどうだったんですか?心の声は?」 マスターは僕を見て、 「実際の心の声では、(もう死んでもいいの)と言っていた。息子に聞かせる内容ではないから、省いたんだが」 僕は嬉しかった、何故か涙が溢れてきた マスターは何を勘違いしたのか 「お前の気持ちは分かる。別にお前が嫌いって訳では無いんだぞ」 「マスター違うんです。それほど母が父の事を好きだった事が嬉しいんです。母は嬉しさとか悲しさを表に出さないので、本当に父の事が好きだったのか、昔から気になっていたので、この話を聞いて本当に良かったです。」 マスターは、早とちりした事の恥ずかしさからか 「まあ 後はめぐみに聞け」 僕は、今の不調の事を言おうとしたが、先程の明日香ちゃんの言葉を聞き。 「話は変わるんですが、この前、僕が分身になって壁をすり抜けたんです。何か問題ありますか?」 「そういえば、他の能力者で聞いた事がある。特に問題は無いよ。」 「前から気になっていたんですが、他の人って?」 「あ~ 能力者専用のHPがあるんだよ」 「HP?」 僕が質問すると、マスターはHPについて語ってくれた。 「僕も登録した方がいいですか?」 マスターは、少し考えて 「今度な。ちょっと登録すると問題があるんだ」 「問題ですか?」 マスターは何かを隠す様に、話を切った。 「お前、バイトがあるんだろ?」 「はい。でも明日香ちゃんが言いって言うまで出るなと言われているので」 「まだ大丈夫だろ。今のうちに帰った方がいいぞ。」 「そうですか?でも、そうしようかな、本当にバイトいけないとクビになっちゃいそうだから」 マスターに薦められるがまま、玄関に向かった。 そして 「お邪魔しました」と言い玄関を開けて外に出ると目の前に明日香ちゃんがいた。 その後ろには彩矢ちゃんの姿が目に入る。 明日香ちゃんの心の声が聞こえる (この馬鹿!!)
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