第5章 恋の始まり

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第5章 恋の始まり

(ユウ) 明日香ちゃんとマスターが帰り、僕は熟睡出来る様になり、翌朝は元気に登校する。 教室に入り、席に座ると横の席の金井さんの席が空席になっている。 そして翌日も、休んでいる。 さすがに2日も休んでいると気になる。 圭に聞いてみる 「金井さん、どうしたのかな?」 「えっ 金井さんに興味あったの?」 「いや 違うけど2日も休んでるから」 「あの娘、可愛いもんな」 「だから 違うよ。俺は明日香ちゃん一筋だから」 すると壮太が話しに加わる 「俺は、京香ちゃんだけどね」 と冗談で話が終わる。 今日は圭もアルバイトなので、母の所に面会に行こうと、電車に乗った。 長い時間、電車に乗り、明日香ちゃんは毎日こんな生活を続けているのかと感心する。 そして、駅に着くと、病院へ向かうマイクロバスに乗る。 マイクロバスのドアが閉まる瞬間、女性が飛び乗る。 僕は、その女性を見て驚く。 「金井さん?」 金井さんも気づき、 「斉藤君?どうして?」 と僕の席に近づいてくる。 僕は 「みんなには黙っていたけど、母が入院しているんだ。金井さんは?」 「兄が入院しちゃって・・・」 「えっ あのお兄さんが?」 「うん。前にも話したけど、以前いた先輩からのいじめが続いていて、兄が逆上して先輩を殴り殺してしまったの」 「殴り殺す?」 「うん。意識を失った元先輩に乗り、自分の手が骨折してまでずーっと殴り続けたらしいの、他の人も兄を抑えようとしたけど、手がつけられなくて、結局、警察が兄を抑えたの。その行動が異常だったので精神鑑定して、ここの病院に入院したの」 「そうだったんだ」 僕は何と声を掛けていいか分からなかった。 そしてバスは病院に着く。 僕は急性期病棟に向かい、母の所に行った。 病室まで案内されて母と面会する。 母は僕を見ると 「もう、早く退院したいんだけど。薬を飲めと言われているけど、本当に何ともないのに飲めないよ」 「そうだよね」 「でも、飲まないと自己管理が出来ないとか言って退院させてくれないし、困っちゃう」 「僕も調べたけど、退院請求っていう制度があって、そこに言えばこの病院と関係ない医者が入院の必要性があるか診察してくれるんだって」 「そんな制度があるんだ。知らなかったよ」 「病棟の公衆電話に番号を掲示しないといけないって書いてあったから、この病院の公衆電話にも書いてあると思うよ」 「今週、退院させてくれなかったら電話しようかしら」 「うん。その方がいいよ、この病院あやしいから」 そんな会話をして、病棟内にあるジュースを購入して、二人で雑談をして、面会を終えた。 父が亡くなってから母との距離が遠く感じていたが。母が入院して、他愛も無い話を繰り返していく度に、親子の距離が近づいたような気がした。 面会が終わり、僕は駅に向かうマイクロバスに乗る。 すると後部座席の片隅に、ハンカチで顔を覆い泣いている金井さんを見つけた。彼女の兄の事を知って、何と声を掛けていいかわからず、僕は彼女の所に行けず前の席に座る。 このバスには、僕と金井さんしか乗っていなかった。 そしてバスは病院を出て駅前近くの発着場に停まった。 僕は席を立ちバスを降りようと出口まで歩いていると、すぐ後ろに金井さんの足音が聞こえる。彼女はまだハンカチを手放せないようだった。僕はこのまま振り向かずバスから降り、金井さんが降りてくるのを待ち、降りてきた金井さんに 「大丈夫?」 と声を掛けた。 すると彼女は、僕の胸に飛び込んできて泣き始める。 「ごめんね。涙が止まらなくて、もう少しこのままいてもらっていい?」 僕は、 「うん」とだけ伝え、涙が止まるまでこのまま動かず、ただ彼女に胸を貸していた。 彼女に胸を貸していると、鞄が落ちる音がする。 音のした場所を見ると、明日香ちゃんと同じ制服を着た菜摘さんが僕を見ている。 すると菜摘さんは鞄を拾い、駅の方に走って行った。 僕は菜摘さんが明日香ちゃんと同じ高校だったのを初めて知った。 何で声掛けてくれなかったのかな?と自問して、この状況を他人が見たら誤解される事に初めて気づく。 僕は明日香ちゃんにこの状況を見られたく無く。金井さんに話し掛ける 「金井さん、少しは落ち着いた。」 「うん。ありがとう、ごめんね」 「じゃあ、どっか喫茶店にでも行く?」 「うん」 僕はなるべく人がいない場所を歩き、駅から少し外れた喫茶店に入る。ここなら明日香ちゃんが来ないだろうと駅から少し離れた場所だった。 喫茶店は、カウンターがあり、テーブルが縦に3個ある小さな喫茶店だった。 僕達はテーブルに座りコーヒーを二つ頼んだ。コーヒーは嫌いだが、男のプライドがジュースではなくコーヒーを選択していた。 金井さんの家は母と兄との3人暮らしで、兄は金井さんにとって父の様な存在だった事を聞く。今回、お兄さんが人を殺すほど憎しみを抱いたのは、どうやら妹を襲うと言ってきた事が原因だった。 一通り話終えて 「あ~ 全部は話したらスッキリしちゃった。斉藤君ありがとうね」 「僕は何もしてないよ」 「ううん。黙って私の話を聞いてくれただけで充分。ただ聞いて貰えるだけで心は救われるのよ」 「そんなもんなの?」 「そんなもんなのよ」 と、初めて彼女が笑った。 そして喫茶店のドアが開く音がする。 二人の女子高生が喫茶店に入って来る。 その二人が明日香ちゃんと友達の彩矢ちゃんだとすぐに分かった。 こんな狭い喫茶店では隠れるところは無い。 明日香ちゃんと彩矢ちゃんはすぐに僕に気づいた。すると彩矢ちゃんが金井さんに近づき話し掛けた。 「大丈夫?」 金井さんは呆気にとられたような表情をする。 僕は危険を感じ、二人分のコーヒー代をテーブルに置き、 「金井さん、僕先に帰るね」と言って店を出て行った。 後ろから彩矢ちゃんの大きな声で「待ちなさい」と声がする。 僕は駅まで走り、電車に飛び乗った。
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