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今日こそは、今日こそはと思いながらも、漫然と日々を過ごしていた。新しい年度が始まったばかりの学校に、指定されただけのものを詰め込んだ鞄を肩から提げて家と単純に往復をする。
始まったばかりなのにすぐに大型連休があって、春休みを経てようやく奮い立たせた学校に行こうという気持ちが簡単に削がれていく。
もうすぐ休みだとスケジュール帳を開いては、ああしてこうしてと予定を立て合う女子の集団が学食の一角を陣取っていた。彼女らは無料で飲めるお茶や水だけを手に延々と飽きることなく話し続ける。
お昼時も過ぎていたし、そんなことで目くじらを立てる人なんていなかった。逆に彼女らよりも先にここに居て、黙々と食事をしているだけ私の方が彼女たちの無言の圧力、感情を殺した目線に当てられている。
決して私が何かをしたというわけではなくても、彼女たちにとってはそこに存在しているというだけで罪になりうるのだろう。
スマートフォンを出して、おもむろに動画配信を眺めてる。これは私のたいして理由のない習慣めいたものだ。
いくつかの配信者をぐるぐると眺めている。
今日はひたすら食事をするだけの女性の配信者の動画を眺めている。彼女は小柄で華奢な容姿に似合わない大盛りの食事をただ食べるのだ。そのギャップがうけているのかチャンネル登録者も多くSNSのフォロワーも何万単位である。
ーしゃくしゃくしゃくしゃくー
今日は青虫みたいにひらすらざく切りされたキャベツを食べるだけの動画を眺めている。
目の前にはいくつかのドレッシングやマヨネーズが並べられていて、彼女は無言で好きなように味付けを変えてキャベツただ食べている。
この類いの動画はASMRの一種なんだとか聞いたことがある。この咀嚼音が心地よく感じられるらしい。
残念ながら私にとっては特別心地のよいものでもなんでもなく、ただ眺めているだけの動画にすぎない。
こんなことをしている間にも簡単に時間は過ぎていってくれる。
私が食事を終え、食器類を片付けようと立ち上がると、女子の団体のひとりがちらりとこちらに目をやった。そうしたかと思うと鼻で笑ったような表情をしてすぐに話の輪へと戻っていった。
鼻で笑ったような表情をされたことは全然気にならなかったけれど、ただそこまでこちらを気にしていたのかということだけは不思議に思った。
きっと彼女らにとって、私なんて気にする必要もない存在なのに。
学食を出ると、外はいやに晴れていて、ああもう今日は違うなと思うのだ。
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