その4、手を繋いでくれた

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どうも、お久しぶりです。 茂越 啓太です。 姉に彼氏がいるという事実に衝撃を受け、弟ながら、あの本性を知られたら嫌われるんじゃないのかと心配している毎日です。 え?あれから勇士とどうなったかって? そうですね、恋人のような幼馴染という所です。勇士は「啓太は恋人だよ?」と言ってはくれます。 けれど、素直に喜べないのは、人前でイチャイチャとできないという、どうすることもできない現実ですね。 他人事のように思っていました。 同性同士の恋人っていう観念が俺にはなかったんです、お恥ずかしい。 視野が狭いと言われるのは承知の上ですが、どんなに世界は同性同士を認めても、ここは日本です。 珍しい物には集団で好奇の目を向けることに躊躇しない人たちが多くいます。 俺も、その中の一人だったからこそ、向けられる視線がとても怖いと思うのです。はい、チキンです。 「今日は、どこに寄って帰る?俺さ、キスプラとか撮りたいんだよねー。」 学校からの帰り道、多くの人が行き交う駅の広場で勇士が普段と変わらない様子で聞いて来た。 キスプラ...うん、勇士ってそういうことをたくさん人がいるところで言える人だったな。 俺はざわざわざわ...と、俺らの周りの人間が少し距離を取っているのに気づいた。そして、やたらと俺らを見ている。 勇士はそれに気づいていないようで、スマホを見ながら向かう場所を探していた。 「あっ、ここから少し歩いたところに撮れるところがあるから行こうよ、啓太」 ニコニコと笑顔を向けてくる勇士が、いつものように俺の手を繋ぎ、歩き始めた。 俺は手を繋いで彼と同じ方向に足を運ぶ。けれど、ちらりと自分のいた場所を振り返ってみた。 ―! 数人...いや、10人ぐらいの人間が、ジロジロと俺らを目で追いかけてきている。 ぞわりと不快な寒気が走る。すごく嫌だった。 勇士は相変わらず気づいていない。 俺は、繋がれている手を離してみたらどうなるのか、と、心の中でぐらりと気持ちが揺らいだ。
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