100の春を

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… 「ほーら!まぁ君!!ご飯たべて!!」 「いーーやーーー!!花掴むの!!」 ー子連れの家族ですね。まぁ君と呼ばれた男の子は私が散らす桃色の花びらを必死に追いかけています。ー 「…あっ!!!取れ……あれ?取れてなかった。よしっ!もっかい!!」 ーヒラヒラと踊り舞う花びらを必死に追いかけてる子供を、シートの上で微笑ましく眺めている夫婦。 父親はお酒を飲み、母親が作ったお弁当に舌鼓をうっています。ー 「やっぱりママが作ったお弁当は美味いな。おい、雅史(まさし)パパがぜぇーーーんぶ食べちゃうぞー?お前が好きな唐揚げも、……んー!!美味しい!!」 「あっ!!パパぁ!!待って!それ僕のっ!!食べちゃダメなのぉ!!」 ー男の子は花びらを追うのを止め、父親の持つ箸に挟まれ口に運び込まれる唐揚げを追う事にしたようです。 …なんと微笑ましい家族でしょうか。そんな父親と息子を愛おしそうに見つめる母親も、私というソメイヨシノのそばで行われる茶番も、誰もが羨む、理想の家族のシーンのようです。 ただここで毎年花を咲かすことしか出来ない私も特別なモノになったような気がしてきます。ー 「デザートは、さくらんぼよっ♪こんな綺麗な桜の下でさくらんぼを食べるなんて凄く贅沢な気がしたから奮発しちゃった!いつかこの桜も実を付けるのかしら…?」 ーおや。母親はどうやら私、ソメイヨシノからもさくらんぼが出来ると思っているのでしょうか?ソメイヨシノは実をつけることはあまりありません。 美味しい実をつける桜は私ではないのだけれど…まぁ、いいですね。“綺麗”だなんて賞賛の言葉を頂けたし、黙っておきましょう。ー
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