卒業の日

3/3
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 つられて僕もついつい笑ってしまう。  正面を向き合って母と笑いあうなんて、何年ぶりだろう。  親なんか、なんてずっと思っていたのに、思えば母はいつも笑っていた。それなのに、僕は理由もなくそれを鬱陶しいと感じていた。今思えば、それが反抗期ってやつなのか。  「そういえば」  母が表札から僕の方に視線を移した。少し見上げるその顔に、いつの間にか母の背を追い越していたという事にまで、今更ながら気付く。  「美光はもう二百まで数えられるようになったの?」  「は、はあ?」  母は手を口に当てながら、俯き加減に笑い出した。  「だってほら、由人(よしと)くんとさあ」  「ば、ばか、どんだけ昔の話をしてんだよ」  「あはは、冗談に決まってるでしょ」  そう言いながら、いつまでもけらけらと笑っている母を見ながら、僕はその日の事を思い出していた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!