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「美光ももう小学生か。早いもんだなあ」
家族三人でテーブルを挟んで朝食を食べていた時、父は身を乗り出して、僕の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「この間まで保育園に通ってたくせにね」
隣では今年中学二年になる姉の貴子が、食パンを咥えながら僕の顔を覗き込んでいる。
母は、自分のおめかしに大忙しなようで、僕達の周りをうろうろしながら騒いでいる。
「美光、準備は出来てるの?」
「ていうかさ、準備出来てないのはお母さんの方じゃないの」
姉がそう言うと、父と姉で大げさに笑い出した。
「それもそっか」
つられて母も笑い出した。
笑いながら父が立ち上がると、脇に置いてあったカバンを手にした。
「じゃあ、行ってくる」
「あなた、いってらっしゃい」
いつもなら父が車で出ていくところまで見送る母も、この日は父に背を向けたままそれだけ言った。
「写真、撮っといてくれよ」
父がそう言うと、母は顔だけ父に向けて親指を立てた。
「何それ、かっこいいと思ってるの?」
姉のツッコミに、また家族全員に笑いが起こった。
「じゃあ、私も行くね」
姉もそう言って、父の背を追うように出ていった。
二人きりになって、ばたばたしている母を見ているうちに、それまでワクワクしていた僕は、急に訳もなく不安になってきた。いや、不安というよりは、緊張なのかもしれない。
「さて、美光、行こっか」
そう言われて、僕は椅子から勢いよく降りると、ランドセルを背中に背負った。
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