6人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
僕達は、一歩一歩ゆっくりと、歩数を数えながら歩き出した。僕が一歩を大きく踏み出すと、由人君も大げさに足を前に出しながら、大きな声で数えだす。
ちょうど僕の家と由人君の家の真ん中あたりまで来た時だった。
「‥‥‥百八、百九、二百!」
「‥‥‥百八、百九、百十、って、美光、違うよそれ」
由人君は急に足を止めて、僕の手を引いた。
「何で?違わないよ」
「違うよ。百九の次は百十だよ」
「違わないもん。百九の次は二百に決まってんじゃん」
もちろん間違っていたのは僕だ。でもその時はそう思い込んでいた。
大声で言い争っている僕らに気付き、母達は雑談を中断して僕等の方に駆け寄ってきた。
「ちょっと、なに喧嘩してんの」
「やめなさい、由人」
母親に手を引かれても、僕達は言い争いを止めなかった。
「百九の次は百十に決まってんじゃん。バカじゃないの」
「バカっていう方がバカなんですう。っていうか、百十って何?訳わかんないよ」
このやり取りを聞いて、二人の母親はどちらが正しいかすぐに分かったのだろう。
「由人!いい加減にしなさい」
「だってさあ」
由人君の母は、僕と僕の母に会釈して、苦笑いしながら先へと歩いた。
少し遅れて、母は僕の手を引いて歩き始めた。
「由人君の方が正しいのよ。後でちゃんと謝りなさいね」
「嘘だあ。だって由人君の言ってる事、訳わかんないよ」
「学校に行けば分かるようになるから、ね」
この時の僕は、正しいとか間違ってるとかより、母が自分の味方をしてくれなかったことが、ちょっと悲しかった。
最初のコメントを投稿しよう!