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琉球ガラスのような恋
◎琉球ガラスのような恋
家まで西に送ってもらった。
車の中には、沈黙が流れていた。
車内はタバコの匂いの中に、かすかだが西の匂いがしていた。
智也は、日なたに干してた洗濯物の匂いがする。温かい包み込む匂いだ。
西は、ムスク系の大人な男の香りがする。
キツすぎずに、それでいて爽やかな中に香る野生的な匂いだ。それがタバコの香りに混ざっていた。
ーーー嫌いじゃない。この香り。……この場所。
「着いたよ」
西の声で、玲子はシートベルトを外した。
「ありがとう……」
「……うん」
タバコを一本出して咥えた西は、玲子の方も見ずに火を点けた。
ドアを閉める時に、背中を屈めて運転席の西の横顏を見た。
タバコを咥えて、前を向いたままの西。
ーーー最後くらい、こっちを見てくれてもいいのに。
唇を少し尖らせて、玲子はドアを閉めた。ドアが閉まるとすぐに車は、走り出して行く。
みるみるうちに小さくなり、やがて消えてしまった。
道路に立ち、早朝のマンション前に残された玲子。
車の姿ばかり追っていた為に肝心なことに気が付くのがかなり、遅くなってしまった。
「あっ……」
マンションのエントランスへ続く階段を上ろうとして、玲子は驚いて立ち止まった。
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