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四話目 「出張帰り」
手の動きが止った。足下から目線を挙げると鍵が開いたままのドアがそびえる。
とっさに鍵を閉めた。
額に汗が流れるのを感じる。
男は振り返った。自分がどうやって部屋に入ったのかを。
腹痛のせいで慌てていた。
頭の中にはトイレへ行くことしかなく、部屋の前に着くとそのまま「ドアノブを回して」部屋に入った。
走破後の熱はすっかり冷え切り、血の気も引いていく。
臭気の立籠める短い廊下を駆け抜け、リビングへに転がり込んだ。
男の出張前、綺麗に整理整頓されていた空間は、どこにもなかった。
食べかけの弁当。大量のビール缶。汚れた衣類が散乱していた。異臭の正体は一目で明らかだった。
部屋の中央には、天井から大人だった一人がぶらぶら静かに揺れていた。
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