一章 システムの問い

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一章 システムの問い

c8967e9d-fb37-497a-9ad7-b05c162d8ffc 俺はシンセサイザーに手を乗せた。 白鍵と黒鍵を同時に押さえる。 「ワン、ツー、スリー、フォー」俺たちは仲間のカウントで演奏を始めた。 今日の演奏は順調だ。 赤、青、黄のライトがライブハウスを照らす。 ロックサウンドが観客を包む。 機材と埃の匂いがする。 日々の成果が今日の舞台に現れる。 観客が演奏に合わせて拳を振り上げる。 客席はほぼ満員。 演奏が中盤に差し掛かる。 ……あれ? 何かがおかしい。 俺は演奏に違和感を感じた。 リズムがずれる……。 今日は生の演奏を楽しんでもらうライブだ。 俺たちは演奏を途中で止めるわけにはいかない。 仲間が不安そうな顔でこちらを見る。 ギターの動きが止まる。 演奏を止めるな! 続けるんだ! 俺は言葉を失った。 俺の指が段々と震える。 俺たちの演奏が……乱れていく……。 俺は客席に冷たい空気を感じた。 観客の動きが止まる。 拳が徐々に降りていく。 俺は足元から不安が込み上げる。 ここで演奏を止めてはまずい……。 俺はシンセサイザーから手を離す。 「ストーーップ」仲間が手を振り叫ぶ。 客席は凍った。 * * * 「では、あなたにとってシステムとはどのようなものだと思いますか?」 俺は机を挟んで左側に座るオールバックの男性を見た。 左側に座るオールバックの男性はにこやかな表情を浮かべる。 システムとはどのようなものだと思うのか? これは用意してきた質問だ。 楽勝、楽勝! 今までの質問も上手く答えられたし、今の調子でいけばこの最終面接も受かるんじゃないか……? 俺は余裕を見せるために、あえて深呼吸をした。 鼻で息を吸う。 口から息を吐く……。 そして、姿勢を少し正す。 「はい。私にとってシステムとは、今の私達の生活の根幹を支える必要不可欠なものだと思います。今や私達のどのような生活も、システム無しには成り立ちません。ですから、私にとってはシステムは生活をする上で必要不可欠なものだと思います」 左側に座るオールバックの男性がにこやかに頷く。 「まぁ、そうですね」 やったか?! 好印象だ! 俺は机を挟んで右側に座る白髪の男性を見た。 右側に座る白髪の男性は、少し前から全く表情を変えない。 若干笑っているような、若干怒っているような何とも言えない表情。 二人の襟にはキラリと光る社章が嵌められている。 『テイラーシステムズ』 俺の第一志望の会社だ。     
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