四章 技術の問い

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「桐生さんに一緒に行くか確認してくれた?」自席に着くなり上代さんが笑顔を向けた。 「はい。現地で合流するそうです。あと、仕事を一部分担してくれてありがとうと言っていました」俺は桐生さんが言ったことをそのまま伝えた。 俺は何とか後回し癖を回避し、前もって仕事をもらった。 弱点の克服にはまだやることがたくさんある。 しかし、確実に一歩進んだように思えた。 他に俺が午前中にやれることは? 俺は腕時計を見た。 十一時前になっていた。 外出するまであっても残り三十分だろう。 俺は手帳を開いた。 手帳に書き込んだ知らない単語を眺める。 知らない単語のうち一つに目が止まる。 『工数』……ところどころに工数という言葉が出る。 システムエンジニアの仕事は工事に見立てると聞いたことがある。 前後の文脈からすると、工数とはどれだけ人手がかかるかという意味に取れる。 人手がかかるということは、お金がかかるということだ。 システムエンジニアの仕事は工数によってなりたっている。 工数、人手、お金。 これらの言葉はほぼ同じ意味を表している。 工事の数、工事の人手、工事のお金。 システムエンジニアの仕事はまるで工事だとも言えそうだ。 午後の打ち合わせでライオンに対してどんな工事をするのかが分かる。 性能調査という名の工事。 失敗はできない。 先程脳裏に浮かんだライオンの姿が思い出される。 午後にライオンに初めて向かい合う。 システムエンジニアとしての初めての顧客先での仕事。 「朽木、そろそろ出るぞ」ふいに西園寺さんが言った。 「分かりました。準備します」俺は西園寺さんに言った。 上代さんがパソコンを閉じ、席を立つ。 俺もパソコンを閉じ、席を立つ。 パソコンを持ちながら、廊下の手前にある背の低いロッカーに近づく。 俺はロッカーを開け、パソコンをしまう。
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